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□〜乱舞記〜最終章
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地梢と同盟を結ぶ。そして、自分がその道標となる――…。


蔵馬はそう決意すると同時に立ち上がり、黄泉のもとを目指した。
黄泉の部屋へ向かう道中、蔵馬は自分がまるで先陣を斬って敵陣へ向かう武将のように感じた。
武器は固い決意とほんの一握りの勇気。そして、断絶の心配のない飛影との確固たる絆。
横に携えた飛影と共に、空羅の御曹司として一つの役目を果たすことを、心に誓っていた。

ところが、もう少しで黄泉の部屋の前という所で、遠くから聞こえたある声が蔵馬たちの歩みを止めた。


“蔵馬ー!”

「あれ?この声は…」

すると、一気に屋敷中の臣下たちが忙しくし始めた。
騒がしい荒音が次第に耳に近くなってきて、それはだんだんと明確になる。
馬が地を蹴る音、その勢いに声を上げる臣下たちの叫び、そして蔵馬の名を呼ぶ慣れ親しんだ声。

“蔵馬ー!待ってろ!”


その声の持ち主はついに屋敷にたどり着いたようだ。
先程までの音が一瞬止み、廊下をバタバタと走る音に切り替わった。
あまりの騒ぎに黄泉と躯も部屋から出てきた。
ちょうど部屋の直前で止まっていた蔵馬たちは、彼等と対峙する形になる。


「一体何の騒ぎだ、これは!」

「黄泉様、危険です!私の後ろに控えて下さい!」

躯が黄泉の前に歩み出て刀に手を掛けたとき、騒ぎの主はその姿を現した。


「おい、蔵馬はいるか!?絽海に勝ったぞ!
凱旋だ、蔵馬。もうここにいる必要はない。空羅に帰ろう!」

「黒鵺兄さん!」

「黒鵺様!」


それは、空羅軍総大将として絽海に攻め込んでいた蔵馬の兄・黒鵺だった。

空羅が絽海と一戦を交える間、地梢と安全協定を結んでいた。
その保証人として地梢に差し出された質が、末弟である蔵馬であった。
蔵馬を可愛がっていた長兄の黒鵺は、絽海を破ると同時にその足で蔵馬を迎えに来た。
国への報告は全て部下に任せ、勝利の歓喜を他と共有することも捨ててやって来たのだ。


「黒鵺兄さ…いえ、兄上。本当に、空羅が勝ったのですか?俺と飛影は、国に帰れるのですか?」

「そんなに畏まらなくていいって、蔵馬。昔みたいに可愛く兄さんって呼んでくれよ」

「はい、兄さん…」

黒鵺は黄泉と躯の前を、彼等を気にするでもなく素通りして、蔵馬のもとに歩み寄った。
そして、飛影と共に固まって動けなくなっている弟の前で立ち止まり、その肩を叩いた。
戦いの傷跡が彼を被っているにも関わらず、その様は堂々としていて、総大将の風貌溢れるものだった。


「勝ったんだよ。昨夜から部隊総出で絽海を討って、ついさっき潰したんだ。
おつかれ、蔵馬。…飛影も、ご苦労だったな」

「私は何もしておりません。黒鵺様…ご無事で何よりでした」


飛影は自分の名前を呼ばれて弾かれるように顔を上げ、その体を黒鵺の方に向けて跪ずいた。
勝利と国への帰還の報告に蔵馬たちが喜びを噛み締めている中、それまで黙っていた黄泉がそれを遮った。






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