story

□振り返った先には
1ページ/2ページ

“蔵馬”

“…なんだ”

“なんだじゃねぇよ。こっち向けって”

“俺に振り返らさせずに、お前が俺の前に来い”

“お前なー、”






そんな憎まれ口を叩きながらも、俺は振り返っていた。なぜならそこには必ず、大好きなあの笑顔が在ったから。


しかし―――


あいつが俺を残して逝ってからは、俺は後ろを振り返るということをしなくなった。

昔はそこに在ったものが、もう無いのだという現実を突き付けられるのが怖かったから。


だから、ただ走った。

一人で。

後ろを顧みず。

誰も寄せ付けず。



――でも、また…


そんなに走り続けないでいいのだと。

たまにはペースを緩めてもいいのだと。

頑張りすぎないでもいいのだと。

俺は…一人じゃなく、傍に付いていてくれる者がいるのだと―――


そういって俺の肩を支えてくれる、そんな人に出逢ってしまった。

昔、彼がそうしていたように、四六時中傍にいるわけじゃない。けれどどうしてか、離れてても心はここに在るような…

いつも共に在るような。そんなこそばゆい感覚。



もう後ろを振り返ることを躊躇しない。もし目の前に見たくないものが存在すれば…その心のままに目を背け、後ろにいる人物に慰みを請おう。


だって振り返った先には、緋色の鋭い眼を持った…だけど優しい表情をした、彼の顔があるから。



“蔵馬”

「……」

“蔵馬。大丈夫だ。俺はここにいる”


もう、怖くない――

「……飛影…」



END
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ