story
□振り返った先には
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“蔵馬”
“…なんだ”
“なんだじゃねぇよ。こっち向けって”
“俺に振り返らさせずに、お前が俺の前に来い”
“お前なー、”
そんな憎まれ口を叩きながらも、俺は振り返っていた。なぜならそこには必ず、大好きなあの笑顔が在ったから。
しかし―――
あいつが俺を残して逝ってからは、俺は後ろを振り返るということをしなくなった。
昔はそこに在ったものが、もう無いのだという現実を突き付けられるのが怖かったから。
だから、ただ走った。
一人で。
後ろを顧みず。
誰も寄せ付けず。
――でも、また…
そんなに走り続けないでいいのだと。
たまにはペースを緩めてもいいのだと。
頑張りすぎないでもいいのだと。
俺は…一人じゃなく、傍に付いていてくれる者がいるのだと―――
そういって俺の肩を支えてくれる、そんな人に出逢ってしまった。
昔、彼がそうしていたように、四六時中傍にいるわけじゃない。けれどどうしてか、離れてても心はここに在るような…
いつも共に在るような。そんなこそばゆい感覚。
もう後ろを振り返ることを躊躇しない。もし目の前に見たくないものが存在すれば…その心のままに目を背け、後ろにいる人物に慰みを請おう。
だって振り返った先には、緋色の鋭い眼を持った…だけど優しい表情をした、彼の顔があるから。
“蔵馬”
「……」
“蔵馬。大丈夫だ。俺はここにいる”
もう、怖くない――
「……飛影…」
END