story
□その結晶を溶かすは我が炎
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その日、飛影が人間界に来るのは実に2ヶ月ぶりであった。
ここのところ魔界に紛れ込む人間が絶えず多く、終わりのないパトロールに忙殺されていた。
逃げ出してしまいたいところだが、トーナメントの勝者が決めたルール。敗者である飛影は従うしかない。
“次こそ優勝してこんなつまらんこと終わらせてやる…”
そう思うのは飛影だけではなかった。
躯はこの仕事を楽しんでると言っていたが――
はっきり言って、自分と周りの奴らじゃ仕事量が違う、と飛影は思う。
催眠能力のある邪眼を持つ飛影は重宝され、他より多分にこき使われていた。
いくら便利とは言え、フェアじゃない、と独り言ちる。
――そのおかげで、こんなにも長いこと彼を放っておく結果になってしまった。
このようなことは初めてじゃない。
期間はまちまちだが、仕事で忙しくて人間界に来れない、というのは珍しいことではなかった。
こんなとき、毎回飛影は蔵馬に会うのを億劫に思う。
自慢の口で厭味という名の棘をぶすぶすと刺されるのも、一つ。
ただそれよりも、そんな彼の眼の奥に潜む悲しみを見てしまうのが、心苦しかった。
もちろん飛影だって、好きで放ったらかしにしてるわけではない。それは蔵馬も理解してくれていると思う。
しかし時というのは、一つの心に闇を燈すには十分に大きな要素になる。
飛影は窓に手をかけ一瞬間を置いて、それを開けた。