story
□紫陽花ワルツ
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時は6月。日本では梅雨真っ盛りで、連日の雨。
その日も例に外れず朝から雨が降っていた。
前日の夜、飛影が蔵馬を訪ねたときには既に降雨は始まっていたようで、飛影はいつもの黒装束をしたらせてやって来た。
身体を冷やしていた飛影に蔵馬は風呂を勧めたが、飛影は
「俺を温めるのは風呂ではなく、貴様の役目だ」
とかなんとか、恥ずかしい台詞を吐いて強引に行為を始めた。
(事が終わった後、ベッドは濡れてしまい飛影は蔵馬に大目玉をくらった)
その後二人仲良く風呂に入り、飛影の妖気の炎で温めたベッドに入った。
再びじゃれあってもう一度飛影が襲った後、ようやく眠りにつき今に至る。
二人が目を覚ましたのは昼過ぎ。
しばらく微睡みの時間を楽しんでいたが、空腹を感じてくる頃だろう。
そう思い蔵馬は問うた。
「飛影、お腹空いてない?昨日も結局何も食べずに寝てしまったでしょう」
「そうだな…食べれんこともないな」
「ですよね。でも連日の雨のせいで、満足に買い出しに行けてなくて…」
と、蔵馬は窓に目を向けた。ガラスの向こうは雨の世界。
薄暗い雲が街の光を奪い、そこに現れているのは寂寥と深閑が混じり合った世態。
この空気感はどうにも人間たちを憂鬱にさせる。
蔵馬もその内の一人だった。
けれど、今日は違う。
彼が隣にいれば、どんな暗雲も開けてくる。
たまには摂理に逆らうのもいいかもしれない、と思った。