story

□太陽が見つめる
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時というのは、虚しく流れるもの。

蔵馬と飛影が奇妙な二人の人間と出会い、共に闘ってから、ちょうど百年余りが過ぎようとしていた。

そのうちの一人は蔵馬と同じように、あの頃と風貌を変えぬままに現在は魔界にいる。
そしてもう一人は、人間としての生を正しく全うして、数十年前に別の世界に旅立った。


「じゃーな。まぁあっちで気長に待ってるぜ」
ということばを、あの憎めない笑顔と共に残して。


蔵馬が家族として慕った者も、彼と同じ世界へ。
それより前に蔵馬は人間としての命に限界を感じ、魔界に戻っていたため、傍で見届けることは叶わなかった。
本当は手をとって看取りたかったが、遠くから見届けた。

しかし、寂しさと懺悔の念と共に蔵馬を満たしたのは、心地好い満足感。
精一杯の償いをしたし、何より母の死に顔は本当に幸せそうだった。
今でも彼女への感謝の気持ちは衰えていない。



その蔵馬が現在いるのは、魔界のとある住居の一室。そこで飛影と共に、ひっそりと暮らしている。

人間界を離れる蔵馬のことを思いやり、その造りは魔界式ではなく、蔵馬が大事な人達と過ごした建物に似せてある。
不器用ながらに思ってくれるその優しさを、蔵馬は大切に胸に受け止めた。


蔵馬はふらっと立ち上がり、そっとあるものを手に取る。
それは四人の青年がイキイキとした表情で写っている、百年前に撮った写真。
色褪せないように、大事にフレームに収められている。


蔵馬はまるで壊れ物を触るかのように、彼等の顔を何度か撫でた。

「……楽し、かったな…」
その呟きは、そのまま空気に飲み込まれてゆらりと消えるかと思われた。
しかし、別の者のことばに生かされた。


「またそれを見てるのか」



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