story
□花なる君を抱きしめて
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先日、第3回魔界統一トーナメントが行われた。
優勝者はムクロ――。
2大会連続で覇者となった煙鬼を敗っての初優勝だった。
「組み合わせに恵まれたのさ」
彼女はそう言っていた。
ムクロが打ち出した方針は、従来のものと大きくは変わらなかった。
ただ一つ、厳重に行われていた魔界のパトロール体制が、従来より緩和された。
おおよその治安が整ったとの判断によるもので、多くの者がそれを支持した。
(パトロールを面倒がった敗者達も含まれる)
飛影もそれを支持した敗者の一人。彼は準決勝まで進んだが、惜しくも敗れた。
パトロール緩和の知らせを受け彼が向かった先は――…。
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「え、一緒に住む?どうしてまた…」
「ムクロの政策だと、パトロールは二日に一回で済むらしい。今までより時間ができるだろう。
ふん、漸くあの面倒な仕事から解放されるぜ」
「そりゃそうですけど…昔は時間があれば修行していた貴方が、いいんですか?」
突然の飛影の提案に、蔵馬は渋る様子を見せた。
きっと跳び上がって喜ぶに違いないと思っていた飛影にとって、この反応は予想外だった。
仕事でなかなか人間界に来れないとき、随分と寂しい思いをさせてしまった。
そう考えての提案だったのに…。何が気に食わないと言うのだろうか。
「貴様…俺が転がり込むのが不満なのか。邪魔か?」
「いえ、そういうわけじゃなくて…あの、本当にここに帰ってくるんですか?」
「なに?」
だから一緒に住むと言ってるだろう。
心に浮かんだ台詞が、思いっきり顔に出てしまったようで、蔵馬が慌てて言葉を付け足した。
「あ、すみません。
だって、その…二日に一回は仕事があるわけだし、そんな日は人間界まで来るの面倒でしょう。
それに貴方は根っからの戦闘妖怪だし、やはり魔界での刺激ある生活の方を好んで…」
“帰ってこなくなるんじゃ…”
そう心の中で呟いた蔵馬の不安を、飛影は瞬時に察知することができた。
素直に嬉しいと喜べばいいのに、どうにも捻くれているところがある。
女々しい奴だ、と心の内で苦笑いした。
「戦いたいときは帰る道中で憂さ晴らししてくる。
とにかく毎日ここに帰るし、飯もここで食う。別に毎日無理して作る必要はないが…。
それでも嫌か?」
少し不安の色が濁る飛影の視線が、蔵馬のそれと交錯した。
思えば、飛影が蔵馬に嘘をついたことはない。彼を信じきれない自分はいつも不安になるばかり。
けれど、どんなときでも飛影は優しくそれを払拭してくれる。
「蔵馬、お前と一緒にいたい。駄目か?」
蔵馬は、穏やかに微笑んで答えた。
“喜んで――…。”
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