story

□花なる君を抱きしめて
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先日、第3回魔界統一トーナメントが行われた。

優勝者はムクロ――。
2大会連続で覇者となった煙鬼を敗っての初優勝だった。

「組み合わせに恵まれたのさ」

彼女はそう言っていた。


ムクロが打ち出した方針は、従来のものと大きくは変わらなかった。
ただ一つ、厳重に行われていた魔界のパトロール体制が、従来より緩和された。

おおよその治安が整ったとの判断によるもので、多くの者がそれを支持した。
(パトロールを面倒がった敗者達も含まれる)


飛影もそれを支持した敗者の一人。彼は準決勝まで進んだが、惜しくも敗れた。

パトロール緩和の知らせを受け彼が向かった先は――…。


**

「え、一緒に住む?どうしてまた…」

「ムクロの政策だと、パトロールは二日に一回で済むらしい。今までより時間ができるだろう。
ふん、漸くあの面倒な仕事から解放されるぜ」

「そりゃそうですけど…昔は時間があれば修行していた貴方が、いいんですか?」


突然の飛影の提案に、蔵馬は渋る様子を見せた。

きっと跳び上がって喜ぶに違いないと思っていた飛影にとって、この反応は予想外だった。
仕事でなかなか人間界に来れないとき、随分と寂しい思いをさせてしまった。
そう考えての提案だったのに…。何が気に食わないと言うのだろうか。


「貴様…俺が転がり込むのが不満なのか。邪魔か?」

「いえ、そういうわけじゃなくて…あの、本当にここに帰ってくるんですか?」

「なに?」


だから一緒に住むと言ってるだろう。
心に浮かんだ台詞が、思いっきり顔に出てしまったようで、蔵馬が慌てて言葉を付け足した。


「あ、すみません。
だって、その…二日に一回は仕事があるわけだし、そんな日は人間界まで来るの面倒でしょう。

それに貴方は根っからの戦闘妖怪だし、やはり魔界での刺激ある生活の方を好んで…」


“帰ってこなくなるんじゃ…”

そう心の中で呟いた蔵馬の不安を、飛影は瞬時に察知することができた。
素直に嬉しいと喜べばいいのに、どうにも捻くれているところがある。
女々しい奴だ、と心の内で苦笑いした。


「戦いたいときは帰る道中で憂さ晴らししてくる。
とにかく毎日ここに帰るし、飯もここで食う。別に毎日無理して作る必要はないが…。

それでも嫌か?」


少し不安の色が濁る飛影の視線が、蔵馬のそれと交錯した。
思えば、飛影が蔵馬に嘘をついたことはない。彼を信じきれない自分はいつも不安になるばかり。
けれど、どんなときでも飛影は優しくそれを払拭してくれる。


「蔵馬、お前と一緒にいたい。駄目か?」



蔵馬は、穏やかに微笑んで答えた。


“喜んで――…。”




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