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□〜乱舞記〜四の章
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「私では…頼りありませんか」

「飛影っ…ちがっ、そうじゃない!」

蔵馬が身体を起こして、飛影を見る。すると飛影は、いつのまにか蔵馬に手が届くまでに移動していた。
蔵馬の目をじっと見つめながら、飛影はその華奢な手を両手で握った。

「蔵馬様…。独りで苦しむのはお止め下さい。私はいつでもお側にいます」

「っ、飛影…」

「貴方が私の前でまでそのような顔をするのは…耐えられません。
無理をなさらないように言ったはずです。せめて、私の前では」

「飛影…うっ、」

歯を食いしばりきつく結んでいた唇から、嗚咽がこぼれた。抑えていたものが一度溢れ出すと、それはとめどなく溢れる。
独り蔵馬は飛影の胸にその身を預けた。


叶わないとわかっている。しかし今だけは、愛するこの側付きの腕の中にいたいと思った。



実はこのとき、黄泉の命によって、部屋に見張りがつけられていた。
黄泉は報告を受ける。

「やはり、蔵馬殿は…。しかし、まだ二人の間に特別な関係があるわけではなさそうだな。
もう少し…様子を見るか」

「黄泉様…見張りをつけるほど質に執着するなんて、初めてですね」

躯が眉間に皺を寄せ、黄泉に問うた。

「ふっ、蔵馬殿は特別だからな」

「…さようでございますか」

「機嫌を悪くするな。お前が極上品であることは知ってるが、お前は抱かない。

お前は優秀な臣下だからな…色恋に現を抜かしてもらっては困る」

「…承知しております」

「次の晩も閨に来るように、蔵馬殿には伝えろ」


それから毎晩、蔵馬は黄泉の相手をした。しかし頑として、蔵馬は声を上げなかった。
蔵馬にとってはそれが、自分の心は飛影にあると、心に誓う証だった。

「何故だ…何故啼かない!素直に欲求に従った方が楽であろう!」

「くっ、死んでも…それだけは、嫌だ」

何度夜を重ねたって、黄泉への蔵馬の態度は変わらない。
しかしそれに連れて、蔵馬と彼を支える従者との仲が親密になってるのは、目に見えて明らかだった。




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