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□〜乱舞記〜六の章
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「ふふ。飛影殿、どうですか」
手首を縄で括られ、足を躯に抑えられている飛影。
そんな飛影の上で、躯は自身の足で飛影のそれを封じたまま、着ているものを脱いだ。
両手を飛影の胸の上に置き、その恐ろしく整った顔を鼻と鼻の先が触れる程に飛影に近付ける。
「貴方も一人の男ですものね、飛影殿。私を抱きたくなったでしょう?
私の裸を見て興奮を抑えられた者はいません」
不敵に笑い、飛影の胸に置いた手を下の方へ移動しようとした。
そのとき――…。
「なりませんな」
はっきりとした飛影の否定の言葉に、躯は驚きに目を見開いた。
顔を少しだけ離し、憎らしい程に真っ直ぐと躯の目を見据える飛影の瞳を確認する。
大きな飛影の瞳の中には、醜く顔を歪めた自身の顔が写っていた。
「…なんですって?」
「そんなに欲求不満なのですか?貴方は。
それなら勝手に乗って勝手にイけばいい。私は手を貸しません」
「っ、何を!」
「…私は蔵馬様のために存在する」
「・・・・・っ、」
「身体の自由が奪われようとも、この心だけは渡さない。
あの方だけを想う、この心には…踏み込ませない。私の全ては蔵馬様のものだ」
躯は思わず目を逸らしたくなった。どうしてこの男はこんなに真っ直ぐなのか。
自分はなんて醜いんだろう。そして、この男の想いはなんて綺麗なんだろう。
逸らしたいのに逸らせない…この男の瞳の強さは何なのだろう。
「蔵馬様の幸せに満ちて笑う顔が見たい。
蔵馬様の悲しみに満ちて泣く顔は見たくない。
私はそのためなら何だってしよう。
…そして、私はあの方の栄達への道を切り拓かなければならない。
その決断を尊重し、全身全霊を賭けて叶えなければならない。
それが蔵馬様を愛する者として、直近の臣下として、やらなければならないことの全てだ。
それ以外の事に心が赴くことはない」
あまりにも強く鋭いその瞳に、つい負けてしまいそうだった。
しかし、ぎりぎりのところで躯は持ち直す。やらなければいけないのだ。
自身の主である、黄泉のために――。
「それは…随分とご立派なことですね。愛する者として…ですか。
蔵馬殿の心を、そうまでして自身に繋ぎ止めるなんて…。ご自分の感情を優先されているようだ。
貴方が我々に逆らうとどうなるのかおわかりですか?貴方の大事な蔵馬殿の身が危うくなるのです。
それを忘れるなんて…直近の臣下が、聞いて呆れますね」
「ふん、地梢の領主の側近はかなり有能だと聞いていたが…噂ばかりでしたね」
「…なに?」
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