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□〜乱舞記〜最終章
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「控えよ!勝手に土足で屋敷に入るなど無礼だぞ、黒鵺殿」

「あぁん?」

鞘を抜く体勢でいた躯を片手で諌め、黄泉は黒鵺と向かい合った。


「蔵馬殿はここに残ってもらう」

「…ああ?」

「黄泉様!」

「絽海を討った今、天下をとるために我が国を攻めてこようともわからん。
質としての蔵馬殿の役目は、まだ終わってないと存ずる。
この条件が呑めないなら、それがそちらの意志として我が国も臨戦体制をとらざるを得まい。
基本的に空羅は敵国。信用などないからな」

「何だと…?」


黒鵺は蔵馬を自分の身体で隠した。
黄泉と黒鵺が睨み合っている中、飛影は刀を抜く準備をする。
蔵馬は黄泉の突然の要求に対する驚きに、対処できないでいた。

このまま国のために自分の感情を隠し、地梢に残るか。それとも争いを覚悟して国に帰るか。

一体自分は何のためにここに来たのか、蔵馬はわからなくなっていた。
父の口車に乗せられ、黄泉の手綱をとると宣言してここに乗り込んだはず。
しかし今ここにいるのは、国の利害のために盥回しにされようとしている自分だった。
蔵馬は戸惑いの裏側で、どう出るか冷静に考えながら、不安を払拭するために飛影を一瞥した。


“飛影、俺はどうすればいい――?”



そうしている中に、躯が静かに黄泉に身を寄せて、黒鵺たちに聞こえないように耳元で囁いた。


「黄泉様、ここは身を引いて空羅の出方を窺うべきです」

「なんだと?躯、お前…私に逆らおうというのか」

「よく考えて下さいませ。
御曹司第一男であり、空羅軍総大将が御自ら蔵馬殿をお迎えに来てるのです。
どう考えても蔵馬殿が捨て駒とは思えません」

「っ、ならば余計に手放せないだろう!空羅に対する切り札になりうる」

「蔵馬殿への執着に国を巻き込むのですか、黄泉様。
それは余計な一戦を交えることになるのですよ」

「・・・・・」


黄泉と躯のやり取りの間、蔵馬と飛影は目で会話を交わしていた。
黄泉の要求にどう対処すればよいかわからない。蔵馬は戸惑いと不安の篭った目で飛影を見た。
しかし、飛影から蔵馬に返ってきた瞳に迷いの色は微塵もなかった。

蔵馬は飛影の瞳の奥に、彼の心を見つけることができた。
飛影は待っていた。蔵馬が自分自身で、自分の行く末に決断を出すのを――。
飛影は蔵馬が出した決断を全力で信じ、全てを賭けてそれを支えるのみ。

飛影の強い眼差しは蔵馬に、ここに来る前に交わした飛影との会話を思い出させた。


“飛影の気持ちが側にあるなら、何でもできる気がするんだ”

“どこまでもついて参ります。私の全てを賭して”


躯の説得を受け、黄泉が先程の要求を撤回しようとする前に、蔵馬の口が先に動いた。


「待って!俺…俺、このまま地梢に残るよ!地梢と同盟を結びたいんだ!」






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