My Everything

□第四話
1ページ/1ページ





目を覚ますと薮の部屋で開けた瞼をもう一度閉じた。
体はもうそんなに気怠くはない。
布団を顔まで被ると薮の匂いがした。
時計は9時を過ぎている。
かなり眠ってしまったらしい。




「光、起きた?」



「うん、起きた」



「具合どう?」



「おかげさまで昨日よりはいいみたい」




立ち上がるとまだ少し立ちくらみがした。
だけれどこれ以上ここには居たくなかった。
ここに居たらきっと自分は薮に甘えるだろう。
向こうにとっては俺はセフレなのだからこれ以上世話になったらきっと迷惑だろう。



「家まで送るよ」



「いいよ、薮忙しいだろ?」


「全然。暇だから」




ここまで優しくしてもらう義理はないのだが差し出された手が温かくてそっと握った。
じんわり染みる体温が気持ちを高ぶらせる。
すきだ、なんて言ってしまえたらどんなに楽なのだろうか。
きっと答えが肯定でなくても良い意味で吹っ切れると思う。
だけどそれができる勇気が自分の中、どこにも存在しない。
ただ歯痒い想いを募らせていくことだけしかできない。
そんな自分が嫌い。
だけどそれを直すだけの経験も力もないのだから素直に受け入れるしかない。





「光、もうやめようか」



「…え」




「ヤるだけの関係、お互い辛いだろう?だからこれからは」




走った。
薮の止める声も聞かずに走った。
どれくらい走ったんだろう。
薮も見えなくなって、立ち止まると目眩がして座り込んだ。





「気持ちわりぃ…」



胃液が口から溢れ出しそうなくらいに気持ち悪い。
吐きそう。
だけど昨日薮に作ってもらった御粥を吐き出すなんてこと死んでもしたくなかった。

『この関係をやめよう』それは一番聞きたくなかった言葉。
イコール自分は拒まれたのだ。




膝に顔を埋めると静かに目を閉じた。
もう二度と瞼を開かないことを願いながら。




‐‐
※薮サイド





『ヤるだけの関係、お互い辛いだろう?だからこれからは』



恋人として一緒にいてくれないかと続けようとした言葉は蝉時雨によってかき消された。














閉じられた世界









第四話end
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ