My Everything

□第五話
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目が痛い。
腫れた目は瞼を閉じるとゴロゴロする。
白いシーツにくるまりながら自分の手を見た。
まだ昨日のあいつの体温が残っている掌、ぎゅっと握ってもあまり力がでなかった。

もう一度寝てみようか、さてどうしよう。
もう一度泣いてみようか、いや涙なんて枯れてしまった。

立ち上がってぺたぺた歩いて小さなベランダに出た。
まだ時間は早いらしく涼しい。
朝日が綺麗だ、手を翳すと指と指の間から零れる光が眩しい。
気持ちがいい。


下を見ると足が竦むような高さ、下には植木がいくつかある。
小学生だろう、ランドセルを背負った子供が笑いながら学校に向かってる。
子供はいいなと思う。
明るくて何も知らない故の純粋な笑顔。
自分もそうだったのか。
戻りたい、戻って何も考えず素直に純粋に笑いたい。
笑って全てを忘れられたなら苦しさから抜け出せるのか。

笑顔の小学生に手を伸ばした。
笑顔を頂戴?
手は空を欠いた。
涼しい空気が身体を包んだ。
足の裏さえも。
ふわりと感じる浮遊感。傾く身体と視界。
重力に逆らえず頭が下がってゆく。
手摺から右手が離れた。


「光!」



腰を掴まれた、力強い腕が異様に細い。
徐々に戻ってゆく身体と視界。
はあはあと聞こえる息切れの吐息。
未だに抱き締められている自分。
伝わる体温、匂い、腕の感触、胸の鼓動。



「お前なにやってんだよ!」



「なにって…」



「なんで飛び降りようとなんか…っ」




そこで初めて気付いた、自分が落ちていたことに。
途端に怖くなった。
足がガクガクした。
枯れていた涙が溢れる。


「怖いよ、怖いよお薮…っ」



「光…?」



「落ちる、怖い」



「光…、大丈夫だから。俺が助けただろう?」



「大丈夫だから、部屋に入ろうか」



薮に抱えられて部屋に入った。
ちらりと下を見たらもう小学生はいなかった。

ソファーにゆっくり降ろされるころには涙は止まっていた。
薮も座り膝に俺の頭をのせた。



「落ち着いた?」



「…ん、なんで薮此所にいるの?」



「ん?へへ、好きな奴の部屋に来たいと思ったから。じゃだめ?」




髪をくるくる指に巻き付けて微笑む薮の膝は細くて固い、寝心地は床で寝るより最悪なのに眠くなった。



「やぶ…おれのことすき…?」



「うん、すき」




頭がぽやぽやする。
久し振りに感じる温かさ、夢かもしれない。
夢ならば覚めないでほしい。




「光、すき」



「ほんと…?」




「うん、言う順番を間違えたよな。本当は体を重ねる前に言わなきゃいけないのに」




頭を撫でている手を掴んでかぷりて噛んだ。




「良かった、夢じゃない」



「てか力いれすぎ血が出てる」




「もう片方も噛んでやろうか?」



「いや、いいって。」




朝日のが包む部屋のなかで俺たちは笑った。

微睡みの小さな光の中で









第五話end
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