After the Rain

□第二話
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その日はずっとおかしかった。
初めて会ったはずの山ちゃんと伊野尾くんは楽しそうにずっと話していた。
もちろん僕も一緒に話していたけれど、どこか1人だけおいてかれているきがしていた。


なんか心の中でもやもやしてあまり楽しめなかった自分がいた。
ずっと考えていた。







――――――伊野尾くん君はだれ?―――――








「裕翔くん伊野ちゃん、じゃあ俺帰るね?」




「うん。ばいばい」





「じゃあな、」






伊野尾くんが山ちゃんに手を振る。
左右に振られたその長細い指はすごい綺麗だった。






「裕翔?どうかした?」



「ふぇ…、あ…うぅん。どうもしないよ。」





伊野尾くんは怪訝そうに首を傾げた。
大きな瞳に見つめられる。




どくん







そのとき心臓が大きく跳ねた。
何度か味わったことがある感覚。でも…、それを簡単に肯定することはできなかった。







「あっ、裕翔。ちょっと楽器屋さん寄ってもいいかな?」



「あ…うん。構わないよ。ただちょっと遅くなるってお母さんに電話してからね」




「りょーかいっ」







アドレス帳のア行。
オの段のお母さんを見つける。
しかしそれでお母さんのアドレスよりもすごいものを見つけてしまった。






「え…、」




「ん?どうしたの?」





ア行の上から5つ目。
“伊野尾慧”の文字があった。
開いてみるとアドレスと電話番号と誕生日やら。





「ろ、くがつ…にじゅうににち…」




「え?急にどうしたの?俺の誕生日なんか言って」





やっぱり合っているんだ…
アドレスを交換した覚えはないし、誕生日だって今知ったのに。




それに…、昨日まではアドレス帳に伊野尾くんのアドレスは入っていなかったはず。






「裕翔?」




「あ……楽器屋さんだよね?いこっ」





僕は伊野尾くんの綺麗な左手を掴んで近くの楽器店に入った。





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