文倉庫1
□来年の今日も、また
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『誕生日プレゼント?え、裸にリボン巻いたお前』
満面の笑みで答えた薮を思いきり殴ったのが三時間程前。
それにより薮は誕生日というビックイベントを肩打撲という痛い状況下で過ごすことになった。
「ん、これ美味いかも」
「マジで?見た目ヤバいけど…」
肩に湿布をした薮は見た目が可哀想なケーキを一口食べた。
『伊野尾の手作りが食べたい』と言われて頑張ったものの、いかんせんケーキ作りなどしたことがない。
それでも何となくで材料を決めて、何となくで作り盛り付けた(ちなみにスポンジは諦めて市販のを買ってきた)
完成品は完成品といえない程に酷い。
生クリームは均等に塗られていないしフルーツだってとりあえずのせただけになっている。
「うん、美味いと思う」
もひもひと草食動物のように咀嚼する薮は実年齢よりも幼く見える。
口元についた生クリームがかなり面白い。
それに便乗してケーキを一口食べると食べられなくもなかった味だったから、もう一口食べた。
去年のこの日は確かメンバー全員で薮の誕生日会を開いたのだ。
みんなで買ってきた大きな綺麗なケーキとオードブルで薮の誕生日を祝ったのだ。
そのときまだ薮とは親友という関係だった。
ちょっとだけ遠巻きに薮を見ていた。
まだそのとき薮は光のとお付き合いをしていた、だから自分の居場所はないような気がして大ちゃんにべたべたくっついて気を紛らわせていたっけ。
「なに考え事?」
「ん?」
「今日は俺の誕生日なんだから俺だけ見てろっての」
「でたー薮の俺様」
「悪いかよー」
ケーキは八割方薮が食べた。
少食な薮のことだから少なからず無理をしたのだろう。
だけれどそのような素振りを全く見せずに美味かったと呟く薮、なんだか少し頬に熱が集まって自分でビックリした。
去年はこの立場が自分でなく光だったのかと思うとちょっぴり嫉妬する。
「なあ伊野尾」
「ん?」
「プレゼント、」
「……裸でリボン巻いたりなんかしないからな」
「そうじゃなくてもいいからねえちょうだい」
ニヤニヤ顔の薮が酷く腹立たしい。
でも去年はこの苛立つニヤニヤ顔も光のものだったのだ。
笑った顔も怒った顔も泣いた顔も。
薮の鼻の頭にキスをする。
こんなこと、俺だからできるんだよ。俺だから。
「こ、これでいいだろ」
「生クリームプレイは?」
「もう片方の肩も打撲したいわけ?」
「いやあ…みんなそれのが見たいかなって」
「みんなってだれだ、みんなって」
きゅっと握られた右手に少しだけ力を込めた。
「薮、」
「ん?」
「誕生日おめでとう」
来年の今日も、また
此所で、
end
一日早いけど・・
薮ちゃんおめでとう!!