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□ちゅうの魔法
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マフラーで口元まで隠しているのは断じて変装などではなく、寒さ対策だ。
はあ、と息を吐けば空気が白く凍りつく。
駅からアイツの家までの慣れた道のりを人も疎らな早朝に歩いている、正直新しい年になって初めての休みだ正月に浮かれる暇もないくらいに忙しいことは有り難いのだろうけどと少しばかりの不満をふつふつと抱きながらいまチャイムを鳴らした。


「……早くね?」


「…悪いか」


「悪いだろ、まだ三時間くらいしか寝てないし」



渋々招き入れた薮を一度睨みつけてからブーツを脱いだ。
親はいないらしく静かな家は暖かくない、薮を見れば分かるように寝起きだから暖房もつけたばかりなのだろう。
マフラーとコートをソファに置いたころには薮が顔を洗って出直してきた。
かなり酷い顔だ、隈ができている。アイドルと言い難い風貌だ。
三時間しか寝てないなどとほざいていたがいまは午前七時だ。
良い子は起きている時間だ。



「ねみぃ」


「…どうせまた高木と飲んでたんだろ」


「んーまあ」



薮曰く、高木と仕方なく飲んでいるらしいが高木といる薮はかなり楽しそうだ。
俺だって飲もうとすれば飲めるのに俺は一度も誘われたこともない。
知っているんだ、高木が誘ってるんじゃなくて薮がいつも誘っているってこと。
別に嫉妬してるとか女々しい話じゃない、只自分がこのまま第三者として薮を遠くから見つめているだけでは薮がどんどん遠ざかってゆくのではないかと不安なのだ。



「寒かっただろ」



「…うん」



渡された珈琲を一口だけ飲んでテーブルに置いた、ブラック派の薮が砂糖をいれて出すのも高木が苦いの駄目だから。
俺は砂糖派から薮に合わせてブラック派になったわけだしこうゆう細かいとこがムカつく。



「あれ…お前コーヒー好きじゃなかった?」


「……今は嫌い」


「あー…え?」



頭を掻きながら、自分の珈琲を飲む薮を横目で見てからテレビをつけた。
朝だというのにバラエティーの特番がやっているのは有り難い。



「…なぁに、拗ねてんの」



「拗ねてない」



「拗ねてんだろ」



「うっさい、テレビ観てんの」



「…別にお笑いあんま好きじゃねえくせに」


「…うっさい」



後ろから抱き着いてきた薮を振り落としたかったが如何せん俺のが背格好が小さいから抜け出せない。
コンサートで毎日あっていたもののこんなにも密着することはなかったから正直ドキドキする。
いつもの香水じゃなくて薮の匂い。
やぶーってかんじの。



「…ちゅうする?」



「なんで」



「お前昔からちゅうすれば機嫌直してたろ」



「……死ねば?」



「ばあか、べそかいてる伊野尾残して死ねないだろ」



「べそかいてねえし、妄想じゃないの?妄想癖野郎」



頬をぺろりと舐める薮、ムカつくから腕を爪で引っ掻いた。
いて、と小さく呟いた薮の唇に自分の唇を押しつけた。



「馬鹿じゃないの?ちゅうは口と口でするものなの」



「…可愛いなあ、お前」



「どうも。」



「だから目ぇ離せないんだよなあ」



「…離したら殺す」




テレビはチープな音を流しストーブはボワボワと地味に大きな音をたてる。
決してムードもクソもない空間。
珈琲の独特の匂いが充満したこの部屋で唇を重ねる。



「…ん、ふ、」



「可愛い、」



「は、あ…今度は俺も飲み会に参加させろ」



「駄あ目、お前酒癖悪いから」














ちゅうの魔法





















end
酒癖悪い伊野尾サンっていいよ、キス魔になればいい。
コンサート行ってきました!!
うへへ

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