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□おひめさまと犬。
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特に冷え込む休日。
空は澄んだ薄い青に光の黄色が混ざった色をしている。
つまりはまだ早朝というわけだ。この忙しい街もまだようやく起き始めたころだ。
手袋をつけた手で、携帯を操作することは極めて難しいが手袋をとるという決断は決してしなかった。
何しろ寒い。


大きな通りから路地に入って、黒い子猫の家の角を曲がって大股で10歩ほど歩いたところ。
休日の早朝におねむな恋人を此処まで来させた男は、門の前で寒そうにマフラーに顔を半分埋めていた。



「遅いんだけど。」



明らかに誰でも分かるくらいの不機嫌さを振り撒くこいつを早くだれかしばいてください。
携帯を見れば集合の五分前。何故攻められるか分からない。



「期待しすぎて早起きしちゃったのか?可愛いとこあるじゃん」


「…薮うざい。うざいし遅い。」



完全に拗ねた恋人の手もまた手袋で覆われていた。その手を掴みゆっくり歩き出せば仕方なくこいつも歩き出す。
息の白いのが二人ぶんで少し大きくなった。
心なしか繋がっている右手が温かい。



「早くしないと並ぶかも。並んでたら薮が並んでてよね、俺はお土産でも見てるから」


「はいはい。仰せのままに。」



きっと東京という名前のつく中で一番人がくるであろう夢の国に行きたいとメールがあったのは昨日の夜中。
並びたくないから早朝に家まで迎えにこいと言われ急いでクローゼットから服たちをかき集めた。





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「疲れた。足マジぱんぱん。ねぇ薮、俺の足まだある?」


「ありますとも。ジーンズに隠された白いすべすべの足が」


「……うっわ」



結局閉園までいた俺達は混みあった電車に乗っていた。
夢の国に着いたら着いたではしゃぎまくったくせに終わった途端に疲れたと連発する可愛い恋人は俺の肩に頭をのせたまま。
電車のいすは決して柔らかくはないはずなのに、まさに天国。
あたたかくて少し眠気が襲ってきた。



「なあ、寝てんのかよ」



あたたかい電車のなか、疲れた足を癒すいす、隣には愛しい恋人。
早朝からフルに頑張りすぎた体は休息を求めた。



「……ありがとな。薮」




遠ざかる意識の片隅で聞こえた愛しい声に口元が緩んだ。












おひめさまと犬。






またきっと、



我が儘聞いちゃうんだろうな、俺。









end。
二年ぶりくらいに更新!
良かったら感想待ってます。

 

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