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□気付かないフリをした
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前半二人とも14、5才くらい。後半は現在の二人。




「いいよ、俺も薮のことすき」



決死の告白は成功した。嬉しくて抱き締めたら恥ずかしそうに笑った。
大好きだった。
いや、大好き。
それからというもの恋人という肩書きがついて、周りからバカップルと呼ばれていた。
手も繋いだ、抱き締めた、キスもした。
只その後には踏み込めずにいた。
傷つけたくない、ただ思春期真っ盛りの自分は性的なことに興味津々なわけで悶々としていた。
そんなとき後輩から耳を疑う噂を聞いた。



『伊野尾くんは先輩たちとヤっている』




そんなことを噂をしていた後輩をぽこんと拳骨をした。
いたいーと騒ぐ後輩の声も聞こえないくらいに同様していた。
まさかと思ったけれど確証がない。
もしかしたら、なんて考えるとレッスンに集中などできなかった。
だから聞いてみた。



「まさかとは思うけど、あの噂本当?」



「噂?」



「い、伊野尾が先輩たちとヤっているって噂」



「……ほんと」



「え…」



「薮のことすきだから、嘘つかない。ほんと。」



言葉を失った。
頭が真っ白になるとはこのことだ。
何も言わない俺に不安になったのか伊野尾はねぇと呟いて肩に手を置いた。
それを思わず振り払った。



「いたっ、薮…」



「汚い手で触んじゃねぇよ!」



「や…やぶ…っ」



「好きだとか言ってただ俺ともヤりたかっただけなんじゃないの?」



「そんな風に思ってたの…?」



「期待させといて…今後一切近付くなよ!きったねぇんだよ!」




振り払った手が動かせずに宙にそのまま浮いていたことも、瞳が揺らいだことも、泣きそうな声で小さく名前を呼ばれたことも知っていたけど気付かない振りをした。

好きだっていったくせに。
人の気持ち踏みにじった伊野尾が許せなかった。

「や…やぶ」


力ない声で呼ばれても無視をした。
軽蔑した目線に泣きそうな顔をした伊野尾がまだ好きだったけど、裏切れたという事実が抱き締めたい気持ちを阻止した。
周りもあんなにベタベタしていた俺らの異常に気付いたらしく何があったのか何度も聞かれた。
そのたびに愛想尽きたとだけ言った。

言葉を交わさなくなり二週間が過ぎたころになると伊野尾は憔悴しきったように元気がなくなっていた。
周りにあまり感情を見せなかった奴だから少し驚いた。
そんなある日レッスンに行くといつもより騒がしかった。



「なんかあったの?」



「え、知らないのか?」



「ん?」



「伊野尾が先輩に犯されちゃって意識が戻らないんだってば」



「…先輩とヤってんのはいつものことだろ」



「なにそれ本気で言ってんの?」



同期の友達に聞いていると光が険しい顔で問う。



「だって専らの噂だろ?あいつ先輩たちとヤりまくってるって。あいつさヤれれば誰でもいいんだろ」




ばちんと乾いた音が鳴って左頬が焼けるように痛かった。
光に平手打ちされたのだと分かると光の顔をみた。



「伊野ちゃんはね、薮のために抱かれてたんだよ」



「は、なに言って…」



「あの先輩達、薮のことがだーいすきで薮のこと犯してやるって話てたの伊野ちゃんが聞いて、薮を抱いたりしないでください、代わりに俺を抱いてくださいって自らいったんだよ」



「な…っ」



「伊野ちゃんだって可愛い顔してるから了解を得てヤれるんだから先輩達が食いつかないはずないでしょ?」



「…っ」



「なのに自分だけ傷ついたヒロインみたいに棚にあげてかっこわるいと思わないの?伊野ちゃんはさ辛いのに薮に被害が及ばないようになにも言えなくて抱かれ続けてさ、薮なんとも思わないわけ?」



人ごみをかきわけてそこの中心にいくと大人の人にタオルケットをかけられて手当てされている伊野尾がいた。
手荒く抱かれていたらしく体は傷だらけで大きな瞳は閉じられたままだった。



「媚薬、使用量間違えちゃって意識が戻らなくなったらしいよ」



光が耳元で言った。
伊野尾は死んだように眠っている。
大人の人の話ではレッスン場にいる医務室の人がもうすぐ目を覚ますだろうと言っていたから心配ないよと言ってくれた。



「や、ぶ…」



「伊野尾」



そらから小一時間ほどして目を覚ました。
みんなレッスンに戻っていたが俺は伊野尾の側にいた。



「駄目…、俺汚いから…薮が汚れちゃうだろ」



「汚くなんかない」



「だって…だって」




そのときあのときの自分の言動に怒りが込み上げてきた。
辛くて苦しんでいた伊野尾を汚い呼ばわりして、泣きそうな小さな声で名前を呼んだことも瞳が揺れたこともそれが伊野尾の助けてのサインだということも知っていたのに気付かない振りをした自分を殺したいほど憎んだ。



「ごめん、ごめん…辛かったよな。大好きだから本当に大好きだから」



「やぶ…」



「ごめん、馬鹿だよなぁ俺。こんな俺とまた一緒に居てくれる?」




泣きながら頷いて抱き着いてきた伊野尾を抱き締めてこれからどんなことがあっても守ると決めた。




‐‐‐‐




「あーそんなこともあったねー」



俺におんぶされてバリバリ煎餅を食べる伊野尾にあの健気な面影は見えない。
あれからまたバカップルに戻り今に至る。
あのあと伊野尾にヤられるのは辛かっただろうと言うと、薮に軽蔑されたことのが何倍も辛かったと泣きそうな顔で言われて胸が痛んだ。
今じゃこんな風に飄々としている伊野尾だけどたぶんまだ心の傷は癒えていないと思う。




「あー思い出したら苛々してきた。薮、今日夕飯奢って」



「はぁー?」



「奢れよなー。あ、1000円以上で」



「はぁっ!?地味に高けぇじゃん!」



「勿論お前の車で」




おんぶされながらバタバタ足を暴れさせる伊野尾に分かったよと言ってしまう俺ってこいつに甘いのかもしれない。








気付かないフリをした




(やっぱり1500円以上にしよっかな)



(…………)




(聞こえないフリすんな馬鹿やぶ)















end

久しぶりにながい。
突発ねた。
 

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