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□愛しい愛しい壊れ物
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AfterTheRainその後。






コツンコツン、靴が床を蹴る音が廊下に響く。
ブーツってやつはゆっくり歩いても音が五月蠅いらしい。
外に出ると強すぎる風が髪を乱した。
雨混じりの風に顔は痛くなる。



「裕翔」



ごおごおと鳴る風のなかで聞こえた歳の離れた友人のほうへ体を向ける。
顔が痛い。
みぞれ雨か、もうこんなに寒いなんて。
夏が恋しいと思うのはみな一緒だと思う。



「伊野ちゃん」



「裕翔、久し振り」




笑う友人、いや恋人は五年という長い月日のなかで全く変わっていなかった。
薄黄緑のマフラーは風に靡いてひらひら遊んでいる。




「この雨は伊野ちゃんのせい?」



「さあ、どうだろう。」




五年振りに触れた手は温かかった。
彼は雨じゃない。
ひとだ。
間違なく彼は今ひとなのだ。
ぺたぺた頬や唇を触る。
温かい体温、抱き締めると胸に耳をあてた。
どくん、どくん規則正しく鳴る心音。




「裕翔」




あの日のクリスマス僕は再び大切なものを失った。
それと同時に大切なものを手にいれた。
愛するということの意味、離したくないものを守りたいという心。
伊野ちゃんにもらったものは全部温かだった。

辛くなかったといえば嘘になる。
会いたかったし人知れず泣いたときもあった。
ただ今まで頑張れたのは守りたいものがあったから。
メンバーや応援してくれる人たちが大切なものになっていた。
守るべきもの、尊いもの。

ふわり笑った伊野ちゃんの鼻の頭に唇をそっとくっつけた。
こそばゆいよとまた笑う。
二度失った大切なものはまた僕の腕のなかに帰ってきた。

さっき言ったように五年の間に大切なものはいくつもできた。
温かいひとたちは沢山いた。
だけれど愛しい存在はひとりしかいなかった。
この腕のなかでいまそのひとは照れくさそうにもぞもぞと動いている。




「伊野ちゃん、僕もう伊野ちゃんの歳を抜かしちゃったよ」



「うん、また一段とでっかく…」



「ねえ、僕は伊野ちゃんともう離れたくないよ。歳も身長も。このままずっと、離れたくない」




「ふふ、身長は大きいくせに中身はまだ子供だな」




いつからか、みぞれ雨は雪に変わっていた。
冷たい雪は頭を肩を二人を白に染めた。




「本当はずっと一緒にいるには仕事なんかしないで何処か遠くに行ってしまったほうがいいのかもしれないね」



「裕翔…」




「だけれど、五年の間で僕は此所が好きになって大切になって支えてくれる人たちを笑顔にしたいって思ったんだ。だから僕は、」




「歌いたい、だろ?」




「うん、歌って笑顔になる人が一人でもいる限り僕は歌っていたいんだ」



伊野ちゃんの肌色の顔は寒さから赤くなっている。
さぁて、風邪を引く前にうちに帰ろうか。




「それじゃあ一生歌うことになるよ」




「え?」




「少なからず俺は裕翔の歌で幸せになれるし笑顔になれる。一生裕翔の隣りでしわくちゃになっても笑って聴いていてやる」




愛しい大切なものっていうのは宝箱に閉まっておけない。
だから抱き締めるしかない。
抱き締めて、笑いあって、たまに喧嘩して仲直りして泣いたりして。
まだまだ未熟な僕らだからこれからもっともっと成長するんだろう。

幸せという温もりが一生続くのならゆっくり恋愛するのも悪くない。




「裕翔、好きだ」



「僕も好きだよ」







愛しい愛しい壊れ物






あたりまえじゃなくて
一日一日を
特別にしよう。

そう言うと
照れたように
彼はほくそ笑んだ。








end
あー…なんかクサい台詞いれすぎたなあ…
まあ、らぶらぶを表現したかったんです。

お題は確かに恋だった様からお借りしました。

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