After the Rain
□第八話
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お母さんに見つからないように、こっそり。
家を抜け出した。
心配性なお母さんのことだ。風邪なんだからと出かけさせてくれないだろう。
「いっぱい降ってる…」
ザーザー。
おろしたばかりのスニーカーもびしょびしょになってしまった。
雨が降ってると駅までの距離が倍に感じる。
だから、嫌いなんだよ。まぁ今日はいつもより嫌いだけれど。
電車に乗ると人はあまり乗っていなくて。
意外にも座れたことに驚き、解けてしまったびしょびしょの靴紐を結んだ。
目的の駅まであと5つ。もう少し時間があるから音楽でも聞こうとウォークマンを取り出そうとバックをあさった。
「ん……あれ?」
ウォークマンの代わりに出てきたのは青いファイル。
入ってたのは譜面だった。それは思っていたドラムの楽譜ではなく、音符が書いてあった。
「ミ…ファ……ファ…」
音符を追っていくとそれは聴いたことがあるメロディだった。
「伊野…ちゃんの、好きな歌…」
世界で1番好きな歌だと伊野ちゃんが泣きながら言っていた曲。
あの時、初めて彼を抱き締めた時夜、聴いた曲。
「……ぼ、く…?」
楽譜の右上に僕の名前と伊野ちゃんの名前が書いてあって。
音符や記号はどう考えても僕の筆跡で。
「…手帳っ、手帳!」
怖くなって手帳を見ると二か月前、『伊野ちゃんとの合作曲ついに完成』と記してあった。
「う…そ……」
また、怖くなった。
自分だけが知らないことがある。
自分だけが分からないことがある。
しかもそれで伊野ちゃんを傷つけてるかもしれない。
「あっ、下りなきゃ」
目的の駅のアナウンスが流れていそいで電車を下りた。
。