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□だって、だって
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「はあっ…はあ」

クリスマスのイルミネーション一色な夕方の街を上着を羽織ることも忘れ全力疾走している馬鹿な奴というのは紛れもなく自分だ。
二度見するカップルを押し退けて走りづらい皮ブーツでアスファルトを蹴った。
小さな金属を握り締めて。
いつの間にか流れ始めたクリスマスソング、日本人の切替えとやらは恐ろしく早いらしく、ハロウィンが終わってすぐにクリスマス一色。
だから流されて忘れかけていた、一周年の記念日のこの日。
気付いたのは陽が傾き始めたころで急いで家をでたのだ。


「はあ…っ、はあ」


カップルだらけのアクセサリーショップに息を切らした男が無造作で適当にアクセサリーを買ったのを見ていた客はどう思ったのだろうか。
頭のなかにはあいつしかなくて、必死に走った。まだあいつは家にいるのだろうか、
ほらあと二百メートル。張り裂けそうな足の筋肉に鞭打って、あいつのいるであろう家へと走るだけ。
ほらあと一歩。


「はあ…はあっ」


チャイムを押すと出て来たのはあいつと、


「あ、薮くん」

「あー薮だー」


裕翔、と名前を呼ぶと二日振りだあと微笑む純粋無垢な少年。
仕事とちがいぺたんとはねがない髪は一段と彼の幼さを引き出していた。

「なにしにきたんだよー薮」

「なにって、そりゃ」

「あーもう裕翔とイチャイチャしたのにい」

「ちょっと伊野ちゃん離してよー」


ジャリと掌のなかの金属が地味に音をたてた。
困り顔の裕翔が、助けを求めるように俺を見上げたのを見て俺は長年アイドルとして培ってきた笑顔をひとつ見せた。

「薮ーなにしにきたんだよ」

「なにも覚えてない?」
「なにもって、裕翔わかる?」

「えっとぉ…なんだろう」

「分からないならいいんだ、明日は早いから寝坊すんなよ?」



帰り際二人に告げると彼等は分かってるよと笑った。
俺も笑ってから家を出た。


「はあ…はあっ」


来たときと同じ様に走って、イルミネーションに照らされた。
イルミネーションに照らされたのは俺じゃなくて掌の金属でなんだか妙にたまらなく顔が熱くなった。
それがなんでなのか分かったのは止まっていた車のサイドミラーにうつっていた自分の泣き顔。


「俺ばっか…ばかじゃないのかよ」


別に良いのだ、記念日だなんてそれがなければ毎日と変わらないただの日曜日だろう。
自分のなかでは特別であいつのなかではそうではなかったただそれだけ。
あいつは一周年の記念日よりも友人を選んだわけなのだから。
いや、友人なのだろうか。
もしかしたら。
掌の金属を公園のベンチに投げつけた。


「はあ、」


息は白い。
長袖のTシャツとジーンズという軽装は寒さをもろに感じられた。

不覚にも裕翔を殴ってしまいたくなった自分がいた。
笑顔はひきつってはいなかっただろうか。
ああ自分は、本当に恋人同士なのか。
一方通行だったのならよく一年壊れなかったよな。
家に帰るとベッドに突っ伏した。
なんだか苛々して人形をぎゅうっと抱き締めた。投げつけられない怒りをゆるいキャラクターにぶつけた。
ヒーターをつけても温まることはなかった。
香を焚いても治まらなかった。
キツい香は意識をもっていってくれる。
眠い。
瞼がとじた。


「うわ、くさい!!」


とじたはずだった、
瞼は無遠慮な声によってまた開かれた。



「薮、焚きすぎだよ。アロマじゃなくて悪魔だよこんなに匂いしちゃあ」

「…伊野尾」

「ん?なに、薮」

「なんで、来たの」

「だって薮泣きそうな顔してたんだもん、だから来たの」



そうしたら部屋くっさいし、と変顔をした伊野尾の顔といったらどんな芸人さんよりも面白くておかしくて笑いが込み上げてきた。


「俺さ、」

「なに薮」

「今日は誰よりも伊野尾といたかったんだ」

「うん、なんで?」

「だって今日は…一周年なんだぞ?だから、半年記念は俺が忘れてたから…」

「なんだか今日の薮可愛いね、メンタル弱くなると女の子みたいになるんだね」

「お前に言われたかねえよ」

「うん、ごめんね。やーぶちゃん」

「うっせえ」



にこっと笑った伊野尾に叶わなくてしがみつくように抱きついた。



「嫉妬しちゃう薮ちゃんもやっぱり可愛いね」

「…うっせえ」
















だって、だって




すきなんだから。














end

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