文倉庫1
□4
1ページ/1ページ
風呂も済まし、髪を拭いていると冷たい風が吹いた。
思わずぶるりと身震いする、夏といえどもう9月だ。
やはり夜は冷える。
すっかり冷たくなった体を少し擦ってから部屋に入った。
寮=誰かと一緒、というイメージをつける人が多いけど俺は一人部屋だ。最大二人部屋なわけだから余った奴が一人になることはよくあるし現に光だって一人だ。
二人部屋より一回り小さな部屋は小さな自分にとっては使い勝手がいい。
窓を開けると綺麗な月が校庭を照らしていた。
昼間人が大勢いる校庭にいま誰もいない、はずだった。
そこに人影があり、それが知っているものだったから急いで階段を駆け降り校庭に降りた。
「伊野尾、くん」
「あっ…えと、」
「有岡だよ」
「そう、有岡くん」
月明りは意外に明るくて伊野尾がはっきり見えた。別に追いかけるような真似をしなくてもよかったのだけれどこの不思議な彼に俺は少なからず興味を持っていたのだ。
「なにしてんの、」
「星の位置を観測していたんだ」
「ほし?」
「うん、星」
確かに光輝く月に負けないくらいに輝く星。
それをノートに記録していたらしい伊野尾は楽しそうに微笑んでいるのだから何かをいうのを止めた。
「近いうちに獅子座流星群がやってくるんだ、だから観測しているんだよ」
「へえ…流星群って流れ星だよね」
「うん、百年に一度の規模らしいんだ。」
すっかりパジャマの俺に対して伊野尾はまだ制服だった。
チラリと見るとなんだいと微笑まれた。
「くしゅん、」
「湯冷めしちゃうよ、俺ももう部屋入るし。」
「…もういいのか?」
「うん、記録はできたから俺もお風呂入らなきゃ」
寒いだろう、と伊野尾は持ってきていたらしい薄手の夏用セーターを俺の背中にかけた。
「だ、大丈夫だって」
「いいから、風邪ひくよ」
じゃあねと手を振って寮のなかに入っていった伊野尾と引き換えに俺は校庭に取り残された。
背中にかけられたセーターからは伊野尾からしていた微かなバニラエッセンスの香りがした。
+