ウソの先

□〜ウソ9つ目〜
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〜ウソ9つ目〜


もうすぐ年が明ける。

12月31日の23時頃、時計をぼんやり見ながら勉強する手を止めた。

今年やっておくべきことはやったはずで、とりあえず悔やむことはない。

あとは勉強するのみ。


「瑞樹、下りてこない?」

『母さん…ノックくらいしてよ』

「あら、し忘れたかしら」

『まあいいけど、オレは勉強してるからここにいる』

「あら、そう…」


本当は勉強なんて進まない。

熱が下がってから数日間、部屋で机と向き合い続けてきた。

だが、必ず頭をよぎるのは水谷のこと。

昨日は夢にまで水谷が現れたのだ。

3学期になれば会える、と言い聞かせてなんとか勉強していた。

なぜこんなに考えてしまうのかはわからない、わからないから困る。

今日5ページしか進まなかった問題集を閉じ、机に突っ伏した。

終業式の日からオレは別人になってしまったかのようだ。

最近このことでしっかり寝てないせいか、自然と眠ってしまった。



ヴヴヴと側で携帯が鳴ったことで目が覚めた。

そのまま机で寝てしまったようで、携帯を手に取りまず時間を確認した。

すると1月1日と表示されていて、しかも6時半にもなっていた。

本格的に寝てしまったのを起こしたきっかけは、美沙子からの電話だったようだ。

急いで掛け直してみると、すぐに電話に出た美沙子。


『あ、もしもし?なにかあった?』

「外見て!今すぐに」


なにを急いでいるのか、海が見える窓のカーテンを開くと少しまぶしくて一度目を閉じた。

その目をゆっくり開きながら光を見て気が付いた。


『初日の出…?』

「そう!どうせさっくんは寝てて見れないだろうから電話してあげたの」

『毎年見れないよ。美沙ちゃんのおかげで今年は見れた』


自慢げに微笑んでいるのが目に浮かぶ、美沙子との付き合いの長さを物語る。

ほのぼのと美沙子のことを考えていると、美沙子が突然小さな声で話始めた。


「ねぇ、さっくんの部屋行ってもいい?」

『えっ、いいけど…』

「今すぐにでも?」

『えぇっ…す、すぐ…?』


突然すぎてうろたえてしまい、すぐに答えを出せなかった。

だが、美沙子は電話の向こうでもうすでに動き出した気がしたから、いいよと返事をして電話を切った。

まもなく家の下の方からガタガタと音が聞こえ、窓を開けると美沙子がニコニコしながら部屋に入ってきた。

こうやって窓からオレの部屋に来ることは幼い頃からしょっちゅうやっていた。


「あけおめ、さっくん」

『あ、そっか…もう年明けか』

「勉強しながら寝ちゃったからまだ実感ないんでしょ?」

『うん、その通り。ちなみに起こしてくれたのは美沙ちゃんだよ』


オレがそう言うと、美沙子は少し照れたように笑いその後ひとつあくびした。

眠そうな美沙子、だがオレは起こされてから眠気は全くなくっていた。


「眠くなっちゃった…」

『寝てもいいよ』

「ちょっとだけね」


迷わず美沙子はオレのベッドに向かい、もぞもぞと中に入った。

オレがベッドの横に腰を下ろすと美沙子はオレの名前を呼んだ。


『なに?やっぱ眠くないとか言うの?』

「違うよ…本当はね、ずっと勉強してて寝てないの。初日の出を見て、びっくりして電話掛けたんだ」


こうして本音をもらす美沙子を見ることはあまりない。

だからこそいつも以上に可愛く見えてしまった。


『そっか…頑張ってるんだね、美沙ちゃん』

「頑張らなきゃ、ダメ‥だから…‥」


喋りながら眠りに落ちていった美沙子の髪をそっとなでる。

このまま美沙子のそばにいてもいいが、ひさしぶりに外を走ってみたくなった。

部活をしていた頃には早朝ランニングは当たり前のことだったのを今身体が思い出したようだ。

美沙子を起こさないように静かに立ち上がり、上着をはおって部屋を出た。

外は寒かったが、走っているうちに身体がすぐに温まったおかげで寒さは平気だった。

ちょうど半分くらい走ったところでさっき美沙子の頭をなでたことを思い出した。

可愛かったからなでたように思うが、今までそんなことをした記憶がない。

だとしたら…

考えることに夢中になっていると、突然目の前に何かが現れた。

それが電柱だと気付いた時はもうすでにぶつかったあとだった。


「おい、大丈夫か」


倒れたのだろう、誰かに声を掛けられた。

こんな早朝に人がいたことに感謝しよう、それが誰かはぼんやりした視界では判断ができなかった。

ゆっくり身体を起こそうとしたら無理をするなと言われ、ぶつけたと思われるおでこ付近を何度も撫でられた。

聞いていて気持ちのいい声だった、触られても嫌な気がしなかった。

そっとその人の顔辺りに手を伸ばした。

そして触れたのは、無機質な眼鏡だった。






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