ウソの先

□〜ウソ8つ目〜
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〜ウソ8つ目〜


ひとまずオレの家の前まで戻ってきた。

海辺で水谷が言っていたことを思い出しながら水谷の家を目指してみる。


『たしか…』

‐佐倉の家から見て、道路挟んだ向かえの家の奥がうちだから


そう言っていたはずだ。

言葉通りに、オレの家の横の道路を渡り、向かえ側の家の奥に視線を向ける。

だが、期待していた名字が表札に書かれていない。


その家には[望月]さんが住んでいるらしく、家主が不在なのか物音もしない。

水谷はウソをついたのかと思い、少しいらだった瞬間、ポケットの中の携帯が振動した。

とりあえず表示も見ずに電話に出た。


『もしもし?』

「あ、瑞樹。さっきは大丈夫だったか?俺心配してたんだ」

『拓海…うん、ちゃんと家帰ったから大丈夫。心配かけてごめん』


そっか良かった、と言う拓海に不信感を覚えた。

先程学校の前で水谷と親しげに話していたのがよみがえる。


『あのさ、水谷は…?』

「あぁ、さっき瑞樹の家に行くって言って帰ったぞ?」


まずい、なぜかそう思った。

オレは美沙子の家にいたのだから、水谷がオレの家に来たとしたら留守だった。

もし、家に帰らないでどこかに行ったと思って捜し回っていたら…


『わかった、ありがとう。じゃあまたね』

「お、おい…瑞樹…?」


電話を切り、その携帯を握り締めた。

どこか行かなきゃ、水谷を捜さなきゃ、焦るだけで行動に移せない。

とりあえず家に帰って冷静になろう、そう言い聞かせて家に帰ることにした。

さっきと違い、落ち着いて鍵を探せたおかげですぐに入れた。

しんと静まる家の中を歩き、部屋に入ると窓から夕日に照らされた海が見えた。

別にいつもと変わらない風景、だが海辺で水谷と話したせいか、違って見える。


『水谷も、見てるかな…』


自らこぼした言葉で急に悲しくなった。

きっと自分のことを捜してなんかいない、予備校かどっかに行く口実にオレを使ったのかもしれない。

今日初めて話した相手をそんなに大切に思うはずがない、冷静になった思考がどんどん現実味を帯びていく。

浮かれていただけ、何かよくわからないものに浮かれてしまっただけ。

考えれば考えるほど胸が苦しくなるのはなぜなのか、身体と心がバラバラになった気がした。

近くのベッドに身を任せ、ゆっくりと目を閉じると眠りに落ちていった。




「‥…ずきったら‥‥のよ。ごめんね、美沙子ちゃん」

『母さん…?』


側で母さんが話しているので目が覚めた。

起き上がろうとしたが身体が熱いような、怠いような感覚がする。


「あら、瑞樹。目が覚めたのね。じゃあまたね、わざわざありがとう」

『母さん、どうしてオレの部屋に…?』

「呼んでも返事がないから入ったの。そしたらベッドの上で寝てると思ったら…熱あるからびっくりよ」

『え…ホントに?』


電話を持った母さんが苦笑しながら疲れが出たのよ、と言う。

さっきまで身体が怠いとは感じなかったのに、不思議だと思いながら布団を鼻の辺りまで引き上げた。


「ご飯食べられそうなら来なさいね」

『わかったよ』


声が布団の中でこもった。

ご飯、という言葉に引っ掛かり、枕元の時計を見ると短針は8を指していた。

今母さんが電話していたのは美沙子で間違いないだろう、家をさっと出て行ったから心配する節でもあったのかもしれない。

美沙子は昔から心配事があればすぐに電話を掛けてくる。


『そういえば、携帯…』


服が制服からパジャマに変わっている、携帯は制服のポケットの中に入っていたはずだ。

軽く頭を上げて部屋の中を見渡すと、机上に寂しげに置かれている携帯を発見した。

なぜか取りに行く元気がない。

特に食欲もない。

再びベッドに潜り直したが、よろよろと起き上がって携帯を取りに行っていた。

着信があったことを知らせるランプが点滅している、布団に戻ってから確認した。

美沙子だった、やはり心配していたのかもしれない。


ふと思ったのは、水谷のアドレスや電話番号を知らないこと。

海辺でアドレス交換くらいしておけば良かったのに、と後悔した。

まぁ、何にしても今日1日が長すぎたように思う。

だから逆に水谷と連絡が取れなくて良かったかもしれない。


結局自分は弱いのだ、本当は水谷になんて言ったらいいかわからなかった。

先に走って帰ってごめん、とでも言えばいいのかもしれないが、それでは物足りなく感じる。

明日から会うことはまずない。

今度会うまでに考えておこう。


携帯を軽く握り、眠くない目を閉じた。






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