『ミアスの塔』

□第1章 麗しき薔薇の王女 ―セレニア―
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古びて埃の籠もった中には、長い長い螺旋階段の先に窓の開いた円形の部屋だけが在った。

塔には珍しく、屋上への道はどこを見渡しても無かったが
最上階の窓から望む景色は美しく、眼下には賑わう城下街とどこまでも広がっているような草原

そして眩む程遠い蒼い天がよく見えていた。


その日からセレニアは毎日のように塔を訪れ、昼には街を、夜には月と星々が輝く空を眺めていた。
時に地図や星座を記した本を持ち込み、見比べては同じだと胸躍らせ、星の位置を観えるだけ覚えてしまった。



いつものように窓から昼の景色を見ていた時
風に絡んだ髪がそこまで伸びたツタに引っ掛かり、風神が糸を紡ぐ。

切ってしまえば、楽だったのかも知れない。
だがそんなハサミも無く、仕方なしに窓枠に座り身を乗り出して髪を解いていると、セレニアは葉の合間から日を受けて光る何かを見つけた。


茂ったツタをかき分け、確かめると、それは銀で作られた人の顔。
見れば見るほど素晴らしい銀細工、17ほどの青年がまるで眠っているような精巧で美しい作りだった。

ただ、冷たい頬に触れても目覚める事はない。
目蓋を閉じた横顔がそこに在るだけ



その静かな時、彼女以外に誰もいないはずの塔で男の声がした。

『落ちるぞ』

たったそれだけの言葉だが、確かにセレニアの耳に聴こえた。
我に返って周りを見回しても、やはり誰もいない。

ふと下を見れば目眩がする遠い大地、その光景にサッと血の気が引くのが判る。
窓の淵から逃げるように中へ降りても、脚がすくみ寒くも無いのに肩を抱いて震えた。

深く息をし落ち着きを取り戻してから、さっきの声の事を必死に考えても


今の彼女には誰かも分からない声の主に礼を言うことしか出来なかった。



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高キ地ヲ護ル安寧ヲ齎(もたら)ス覡(かむなぎ)

女神二愛デラレシ争イヲ齎ス巫女

彼ノ聖者ガ並ブ時

王ハ直リ国ハ奪ワレルダロウ

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