ScaredRiderXechS text
□俺だけの特権
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※補足
・ED後。同棲してます。
風呂は、大体アキラが先に入る。一緒に暮らすようになってから、自然にそうなった。
女が風呂に入る時間は長いらしい。彼女も例に漏れなかったようで、俺はその間にのんびりと夕飯の後片付けをするのだ。
キュッと水道の蛇口を閉めたとき、ペタペタと聞き慣れたスリッパの音がこちらへと近づいてくる。
「ヒジリくん、上がったよ」
首に巻いたタオルで髪を拭きながら、アキラがリビングに戻ってきた。風呂上がりの、ほんのりと上気した顔に、簡単に理性が崩れそうになる。
・・・その欲望に負けて風呂上がりのアキラを抱き上げて寝室に連れ込み、そのまま事に及んだせいで散々説教されたのはつい最近のことで。もう説教はこりごりだし、次同じことをやったらしばらく口を聞かないと宣言されたものだから、ぐっと押し留まった。
アキラのことをそりゃもう愛しちゃってる俺としては、従わなきゃしょうがないんだけどさ・・・あー、くそ。惚れた弱みってやつか。
「冷めちゃうから早く入っちゃってね」
「・・・おーう」
アキラは、そんな俺の葛藤に気づいていないんだろう、呑気に風呂の催促をしてくる。
・・・言われた通り、とっとと入ってきてしまおう。そうしたら少しはこの悶々とした気持ちも薄れるだろうし・・・。
そう思ったとき、アキラのまだ濡れたままの髪が目に入る。
「わっ!」
俺はアキラの首からタオルを抜き取ると、バサッと頭の上から被せた。
「ちゃんと拭けって。風邪引くぞ?」
ポタポタと雫が髪の毛を伝って彼女の肩を濡らす。
俺は彼女の髪を拭き始めた。
「ちょっ、ヒジリくん痛いっ」
アキラの抗議が飛んできて、力を少し抜く。
「わりぃな。他人の髪を拭くなんて初めてだからさ。・・・どう?」
「それくらいかな。あんまり強くすると髪の毛いたんじゃうんだって」
「なーるほどな。確かに、綺麗なお前の髪が傷むのはごめんだわ」
「っ」
アキラが息を呑む。タオルで表情は読めないけれど、きっと真っ赤になっていることだろう。
それを見られないのは残念だけど、昨日の説教の意趣返しができたからプラマイゼロだ。
「やっぱ、あのシーンみたいに最初っから上手くはいかねぇな」
「あのシーン?」
不思議そうにアキラは首を傾げる。立ち話もなんだし、とテーブルから椅子を引っ張り出してアキラを座らせると、手を休めることなく口を開いた。
「結構前に見た、映画のワンシーンなんだけどさ・・・」
古い映画だったと思う。それに、男が風呂上がりの恋人の髪をタオルで拭いてやるシーンがあった。髪を拭き終わって、女が男に優しく微笑む。つられてソイツも微笑み返して。二人どちらからともなくキスを交わす。
ラブロマンスは苦手な方だけど、そのシーンだけはひどく印象に残っている。映画のタイトルも、俳優の名前も覚えていないのに。
「素敵なシーンだね」
「あぁ。多分憧れてたんだろうな。好きな女の髪を拭いてやるってことに」
タオルを床に投げ落とす。まだ完全には乾いていない彼女の髪に触れる。
綺麗な綺麗な、アキラの髪。少しくせがあるみたいだけど、指を通せばさらりとすり抜ける。
「ヒジリ、くん・・・?」
戸惑うようなアキラの声が耳に届く。俺はにっと彼女へ微笑むと、毛先を指に絡めてちゅっと唇を落とした。ふわりとリンスの匂いが鼻をくすぐる。
「オマエの髪を拭くのは、俺だけの特権。こうやって指に絡めるのも、キスをするのも、俺だけでいい」
だろ?と訊き返すと、真っ赤なトマトのように顔を色付かせてアキラは頷く。
俺は毛先を指から解放すると、それをそのままアキラの顎に滑らせて顔を上に向かせた。それを合図と取って目を閉じたアキラの唇に、吸い寄せられるように自分のを重ね合わせる。
ぺろっと舐めてやれば薄く唇の隙間が空いて、それを見計らって舌を滑り込ませる。逃げるアキラの舌を絡め取って、息をも食らいつくすような勢いでアキラの唇を貪ったのだった。