あはれなるもの

□榊
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「キレー。」
「美味しそうですね。」
「…。」
「…。」

 
『ケーキ屋の前にて』

 
「えるるー、やめてよね。
 夢がないな。」
 
 眉を顰めて言えば。
 
「『美味しそう』は食べ物に対する『美味しい』に次ぐ褒め言葉です。
 と言いますか、貴女こそ、そのふざけた呼び方やめて下さい。」
 
 眉を顰め返された。
 むむぅ。
 
「だって『竜崎』って可愛くないんだもん。」
 
 口を尖らせて言えば。
 
「そういう問題じゃありません。」
 
 あっさり、ばっさり切り捨てられた。
 
「えー。」
 
 
 間。
 
 
「…美味しそうですね。」
「それ以上に綺麗だよ。」
 
 再び店の前のショーウィンドウに向き直る。
 
「美味しそうだから、綺麗なんですよ。」
「何それ。」
「貴女もとても綺麗で美味しそうですよ。」
「……………。」
 
 何だ、今のは。
 褒められてるのか、貶されてるのか、セクハラなのか。
 
「どうしました。」
 
 何事もなかったように声を掛けてくる『えるる』。
 
「…ケーキ買って、帰ろうか、えるる。」
 


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