果ての月
□死、勇敢なる男の傍らにて。
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「忠告は、してあげたというのに。」
生ある者が一人もいなくなった部屋に、少女は現れた。
そして、横たわる男に歩み寄り、その隣に膝を付いた。
「そんなにリリー・エバンスが大切だったのね。」
知っていたけれど。
呟いて、眼を細める。
そっと、男の首に触れれば、手に血が移った。
それを見て、少女は眉を顰めた。
「痛かったでしょう辛かったでしょう。」
男の瞳に、彼女が映ることはない。
「今度は、上手くやりなさい。
全員、アチラへいったから。」
男も、男が愛した女も、その女の夫も、その親友二人も。
もう一人も、此方の世界には生きていない。
「私達の世界の住人には、成ってくれないのでしょ。」
血に濡れていない方の手で、男の眼を閉ざしてやる。
「…こんなことの為に、この城を、この地を、提供したわけではなかったのに。」
伏せられた少女の眼。
深い闇を湛えたそれは、ゆっくりと閉じられた。
「此処は、墓場ではないというのに。」