果ての月
□吸魂鬼、人間を糧にする者。
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「機嫌が悪いな。」
少女の、一定のリズムでイライラと指が動く様を見て、男は言った。
少女は滅多に怒りや悲しみといった負の感情を他人に悟らせる様なことはしない。
しかし現状は、明らかに機嫌が悪い。
「当たり前だわ。」
男の眉間同様、少女の眉間にもくっきりとした皺が刻まれている。
「吸魂鬼、よ。」
「…あぁ。」
今年はシリウス・ブラックを捕まえる為に、アズカバンの看守である吸魂鬼がホグワーツに配備されることになった。
「あんな下賤の輩が、この敷地に入り込むなんて。」
「随分な嫌いようだな。」
鼻で笑うように男が言えば、少女は珍しく男を睨みつけた。
「当然よ。
あいつ等は私達の世界に於ける下賤な生き物。
私達の誇り穢す者共。」
少女の眼の下が、ピクリと動く。
少女の余りの不機嫌振りに、男は逆に面白さすら感じた。
「私達も、あいつ等も人間を糧にするという点では同じ。
私達、吸血鬼の糧は血。でもそれは奪う訳ではなくある種の契約。
あいつ等、吸魂鬼の糧は魂。欲望のままに奪い取る只の横暴。」
少女の向かいに座し、男は首を傾げた。
「欲望のままに動く吸血鬼もいるのではないか。」
すると少女は男を再度睨みつけた。
「あれは誇りを失った愚か者共よ。」
そして、ふっと少女は視線を落とした。
「誇り高き吸血鬼は違う。
この地に於ける、人間達との契約があろうとなかろうと、私は略奪なんてことはしないわ。」