果ての月

□雌鹿の居場所、夢の図書室にて。
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「牡鹿なのですってね。」
 
 気付けば、ハリーは図書室で机に向かっていた。
 見知った図書室のはずなのに、周りの風景は少しぼやけ、どうにも不安定で不確かな空間に感じられる。
 背後の席に座している者は、続けた。
 
「貴方の、守護霊。」
「…うん。」
 
 聞き覚えのない少女の声。
 何故、自分の守護霊が牡鹿だと知っているのか。
 ハリーは不思議に思い、後ろを振り返ろうとした。
 しかし、出来ない。
 後ろを振り向こうと思ったのに、金縛りにでもあったかのように、机に向かったままの姿勢から動くことが出来なかった。
 
「その牡鹿、貴方の父親なのでしょう。」
「そうだよ。」
 
 身動きは出来ないまま、少女の確認とも取れる問い掛けに答えた。
 隠すこと、嘘を付くこと、そんなことは考えもせずに素直に答える。
 
「貴方の父親が牡鹿なら、母親は雌鹿でしょうね。」
「そうかもね。」
「雌鹿は何処にいるのかしら。」
「さぁ…。」
 
 背後で、席を立つ音がした。
 
「きっと、雌鹿は、彼女のことを永遠に愛し続ける人の元にいるのよ。」
 
 そこで、ハリーは眼を覚ました。
 いつも通り、寮の自室だ。
 
「おはよう、ハリー。」
「…おはよう、ロン。」
 
 ぼんやりとしているハリーにロンは首を傾げた。
 
「夢を、見た。」
「どんな夢だい。」
「…思い出せないんだ。」
 
 ロンは更に首を傾げた。
 ハリーも首を傾げた。
 
「何か、とても大切なことだった気がするんだけど…。」
 


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