あはれなるもの
□槇柱
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義姉は、眠りながら涙を流す人だった。
義姉は、一目でオレが“兄”ではないことを見抜いた。
他の奴等がオレのことを“ジュリアン・レドモン”だと疑いもしない中で、唯一。
見抜いて、他に誰もいないところでは、オレのことを“弟クン”と呼んだ。
義姉は、兄の恋人だったらしい。
しかし、日系人の義姉は秘密の恋人だったのだという。
秘密の恋人で、秘密の婚約を取り交わしていた。
その証が、左手の薬指でいつも光っていた。
義姉は、兄を愛していた。
兄は軍隊上がりで、薬漬け。
それでも義姉は兄を愛していて、兄にとっても義姉は掛け替えのない人だったようだ。
義姉は、よくオレを訪ねてきた。
訪ねて来ていて、少しの会話をしたら、後はソファで本を読んでいた。
仕方ないからオレも向かいのソファで本を読んでいれば、隣に移動してきて。
気付けば俺の足の上に寝転がっていた。所謂、膝枕。
それは義姉の癖。
義姉本人が、そうだと認めた。
同時に、本人は言わなかったけれど、きっと兄と過ごす時の癖。
東洋人らしい黒髪が広がって、どうにも綺麗だった。
何時の間にか、義姉は眠ってしまう。
そして。
義姉は眠りながら、涙を流した。
時には、兄の名前を呟いた。
義姉は、義姉だけは、兄の死に、胸を痛め、嘆き、哀しみ、涙を流した。
義姉だけが、“本当の”兄を失った世界で生きていた。
この人のことだけは、守らなければならないと思った。
この人のことだけは、守ろうと思った。
オレと義姉だけが、兄のことを知っている。
『オレと義姉だけが』