artistic

□art9-4
1ページ/1ページ

 
 ふいに、眼が合った。
 少し霧が漂い、風のない夜。
 髪が揺れて、この視線を遮るということも無く。
 逸らそうにも、逸らせない雰囲気に。
 見詰め合う、という状況になってしまう。
 
「素晴らしいわ。」
 
 唐突に彼女が言った。
 
「え」
「貴女の、瞳。」
 
 ゆっくりと、彼女が手を伸ばしてきて。
 反射的に眼を瞑れば、彼女の手は、優しく瞼を撫でた。
 
「素晴らしい、緑。」
「そう、かな。」
 
 眼を瞑ったまま答える。
 
「えぇ。
 滅多にない、素晴らしい、緑の色。」
「アタイの仲間も同じ色だよ。」
 
 シフは、皆、この緑の瞳だ。
 小夜の赤とも、ディーヴァの青とも違う。
 緑。
 
「そう。」
 
 呟いた彼女は、伸ばしてきた時と同じように、ゆっくりと手を離した。
 眼を開ける。
 また、眼が合った。
 彼女の瞳は、綺麗な赤だ。
 
「あんたの眼の赤も綺麗だよ、凄く。」
 
 すると、彼女は首を傾げた。
 少し、考えるような素振りを見せて、それから数度頷いた。
 
「昔も、褒められたことがあるわ。」
「綺麗だもん。」
 
 笑って言えば、彼女は眼を細めた。
 何となく。
 
(笑い返してくれたような気がした。)
 



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ