artistic

□art9-5
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 緑の炎は、一晩中燃え続けた。
 モーゼスとカルマン。二人を包んだ炎。
 居ても立っても居られなくて、夜の街に飛び出した。
 小夜達が引き止めてくれる声が聞こえたけど、どうしようもなかった。
 寂しい。悲しい。怖い。淋しい。哀しい。恐い。さびしい。かなしい。こわい。
 
 そして、彼女の元に辿り着いた。
 彼女は、いつもの無表情で、あの炎を見詰めていた。
 
「素晴らしい。」
 
 アタイの存在に気付いたのか否か、彼女はポツリと呟いた。
 
「え…」
「あの、炎。綺麗。
 素晴らしい…いえ、すごい。」
 
 彼女は、炎から眼を逸らさずに、言った。
 
(頭に、血が上った。)
 
 勢い良く、彼女に掴み掛った。
 
「『綺麗』とか『素晴らしい』とか、ふざけるなっ」
 
 此方を見た赤い瞳が、ゆっくりと瞬きをした。
 
「あの炎は、アタイの仲間だ。仲間が死んで、燃えてるんだ。
 それを、評価するみたいに言うな。あれは、二人の命なんだよ!」
 
 彼女は、もう一度瞬きをして、頷いた。
 
「知っているわ。」
 
 その言葉に、眼を見開いた。
 
「私は、知っている。
 だからこそ、言うの。綺麗だと、すごい、と。」
 
 彼女が、怖かった。
 だからじゃないけど、手を離した。
 でも、逃げ出しはしなかった。
 怖かったけれど、それだけじゃない、何かがあったから。
 
「あんなに、すごい緑を私は知らない。
 貴女の瞳も、良く似ているけれど、あの炎には、敵わない。」
 
 彼女の視線は、再び炎に向けられた。
 
「命を喰らって、発せられる色は、他の追随を許さない。」
「あんた…」
 
 彼女が、眼を伏せたように感じた。
 でも、感じただけだろう。
 彼女の視線は、ただ、緑の炎にだけ向けられている。
 
「此れは、戦争、だから。」
 
 赤の中で、緑が揺れていた。
 
(泣きそうに見えたのは、気の所為だろうか。)
 


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