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□art9-6
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「あの、さ。」
 
 二人が死んで数日。
 彼女に、久し振りに会った。
 会った、というか、会いにきた。
 この間は、あの後、何も言わずに、帰ってしまったから。
 
(小夜達の、元へ。)
 
 言葉が続かない。
 何を言えば良いのか。
 謝るのも、怒るのも、何だか違う。
 何を言えばいいのか。
 …いや、言葉には出来ない。
 
「名前。」
 
 彼女が、言った。
 まるで、口籠るアタイを助けるように。
 
「な、まえ…?」
 
 彼女の言葉を繰り返せば、彼女は頷いた。
 
「もし、貴女が呼んでくれるというなら」
 
 勿論、教えてくれたら、アタイは彼女の名前を呼ぶだろう。
 そういう意味で頷いて見せれば、答えるように彼女も頷いた。
 
「貴女が、付けて。」
「…へ」
 
 付けるって。
 
「あんたの、名前を、かい。」
「えぇ。」
 
 呆気に取られるアタイを気にすることもなく。
 
「私の名前は、置いてきてしまったから。」
 
 彼女は飄々と言ってのけた。
 
(名前を付けてくれ、だなんて。)
 
 呆然と、彼女を見れば。
 赤い瞳で、見返された。
 
(名前、か。)
 


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