artistic
□第1章
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〈襤褸屋という名の彼女の住処。〉
一軒の襤褸屋。
其処は、とても若い女性が一人で住んでいるようには見えなかった。
人通りは皆無、表札も無いので確認のしようも無い。
しかし、オーナーから、つい先刻、聞き出した住所は、確かに此処で。
訝しみながらも、あれだけの作品を作るヒトの住居かと思うと、何処か納得。
(芸術家というのは“変わり者”が多いものだ。)
今にも取れそうなノッカーを、壊さないよう、優しく鳴らす。
数度其れを繰り返すが、中からの返答は無く。
徐々に、ノッカーに込める力も大きくなる。
其の内、ノッカーを壊しかねない程、力を込めていることに気付き、自分の手でノックをすることに変更。
だが、相も変わらず、返答は無い。
外出中かとも思ったが、家の中には確実に人の気配がある。
連絡も無しに訪れた自分を非常識だとは思うものの、ここ迄しても何の音沙汰もない住人も住人だと思う。
(此方からの連絡に関しては、連絡をする間も惜しい程に『ガーネット・ホワイト』に早く逢ってみたかったのだから仕方が無い。)
今日のところは引き返すべきか、と思ったものの、絶対に家の中にいる『ガーネット・ホワイト』に逢わずに帰るのは、悔しい。
少し考え、唸ってから、試しにノブに手を掛けてみた。
ノッカー同様、今にも壊れそうな見掛けとは裏腹に、其のドアノブは、しっかりとその機能を果たした。
開かれた扉の向こうには、薄暗く埃の積もった廊下。
(やはり、若い女性が住む所では無いと思った。)