桜花ニ賦ス
□さくら 四十二
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玄関まで隼人をお見送り。(ちなみに連は食器洗い中。)
昔っから見送りにくると、ついつい話してしまう。
「『連さん』なんて、随分懐いたのねぇ。」
「懐くってなんだよ。
連さんが、オレが良ければ下の名前で呼べって言ったからだよ。」
「ふーん。」
何だか、人は変わらないものだ。
私の、小さい時の隼人も、今の隼人も、やっぱり隼人は隼人だ。ちゃんと、繋がってる。
「居候っていうから最初ビビったけど、良い人そうで良かったな。」
「危ない人は居候させないって。」
笑って答える。
私はまだまだセンタローのように、誰でも、それこそ危ない人でも、居候させてあげられるだけの心の広さも余裕もないからなぁ。
ま、連の場合は危ない人でも危なくない人でも、どっちでもないみたいだけどね。
「それに」
隼人が、また口を開いた。
「『それに』?」
促してみる。
「連さんの声。」
「へ?」
「センタローさんにそっくりだしな、連さんの声。」
「は?連の声が、センタローの声に似てる?」
隼人が、馬鹿にするような、呆れるような、そんな顔で私を見た。
「…気付いてないのかよ。」
「気付くも何も、全然違うじゃない。」
「はぁっ?そっくりだろ!」
「そっくりじゃない!」
センタローの声は、もっと優しくて、慈愛に満ちていて、それでどうしようもなく寂しそうで、哀しそうで。
連の声とは、全然、違う。
むっとしながら、そんなことを並び立てれば、隼人もそれ相応の言葉を返してきた。
だんだん、軽い口論というよりも喧嘩の雰囲気になってきた頃。
「あれ、隼人、未だ居たのか。」
家の中から連が出てきた。
「何なら、夕飯食ってくか。」
「いや、結構です!そこまで御厄介には。」
…だから、作るの私だよね。
そう思ったら、何だか気が抜けて、『声』のことは一先ずどうでも良いことにしておこうって気分になった。
(主人公視点)