自然保護隊スターフィル

□第1然
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自然保護隊スターフィル

第1然 出会い

 世界リクワイア。この世界は様々な星が存在する。その星々の1つであるアノム星には、人間たちが住んでいた。この星には様々な王国や街や村があり、学校もある。中には魔法を扱う者もいた―――だが魔法の存在を知らない人々もおり、そんな彼らはマン人と呼ばれている。マン人は亜人種や魔法の存在をただのおとぎ話の中だけのものだと思っているのだ。
 しかし、マン人の中でも逆の考えを持つ少女がいた。彼女は学校が休みの日はいつも昼間に外で日向ぼっこをしながら、晴れた空を見上げていた。草むらに座り、風に当たりながら自然を感じる。彼女はそれが好きだった。
「―――……」
 今日もまた彼女は草むらに座り、空を見上げる。頬を撫でる風が春の訪れを感じさせてくれる。
 そう、今学校は新たな年度の始業式を迎えようとしていた。そしてその始業式は明後日に控えている。春休みの間ずっと外に出てはこうして日向ぼっこする日々も、学校が始まればそれも容易ではなくなるだろう。それを惜しむかのように、彼女は複雑な心境を抱えながら空を見上げていた。
 ふとそんな時、少し強い風が彼女の髪を揺らした。たまに強い風が吹くのは珍しいことではないが、この日の風は誰かの気配を感じるような、そんな風だった。その気配を感じ取るかのように、彼女はその気配を感じた方向へ顔を向く―――そこには彼女が見たことのない、一言で言えばマン人が信じない者と言っていいかもしれない姿の“何か”がいた。しかしその“何か”は彼女がこちらを見ていることに気づくと、慌てるようにどこかへ消えてしまった。
「あっ! ちょっと待って……」
 彼女はその“何か”を引き留めようとしたが、それも後の祭りだった。見たことのない“何か”に驚きを隠せないまま、彼女は呆然とその方向を見つめ続ける。
「ロムネ! 早く帰ってきなさい!」
 すると、彼女――ロムネの名を呼ぶ女性の声が聞こえた。ロムネと呼ばれた少女はその声で我に返り、後ろを振り向く。そこには、家の玄関で母ララムが手を振る姿があった。
「今行くわ、お母さん!」
 そう言うと、ロムネは家へ向かって走り出した。

                    *

 ロムネの家庭では父が数年前に他界し、現在は母と2人暮らしで一軒家に住んでいる。そしてまた、マン人と呼ばれる摩訶不思議な現象を信じない家庭でもある。
「ねえお母さん」
 そんな家庭にいながらも、ロムネは母親に聞いてみた。
「なあに、ロムネ」
「わたし、さっき人間でも動物でもない不思議なものを見たんだけど……」
 娘の言葉が不思議だったのか、母はその言葉に疑問を浮かべる。
「なに言ってるの? そんなのいるわけないでしょう? そんなのは小説や絵の中だけよ」
「そうかなあ………」
 自分の見間違いなのだろうか―――母の言うことは間違いでもなかった。今までにそういう人を見たという情報はなく、それらは全て小説などのおとぎ話の中でしか存在しないと皆思い込んでいたのだ。きっと見間違いだろう、ロムネはそう思い、この日はこれ以上外で日向ぼっこすることはやめることにした。

                    *

 部屋で明後日の始業式の準備を早々に済ませ本を読んでいると、気づけば夜になっていた。夕飯と風呂を済ませ、今日は早めに寝ようとロムネは2階の寝室へと向かう。しかし、そこで彼女は不思議な存在を目の前に見ることとなった。月に照らされた“それ”は、まるでおとぎ話で出てくる背景に描かれている星のような、海にいるヒトデのようなそんな姿だった。そして“それ”は、ロムネが昼間見かけたものに間違いなかった。
「あなたは……一体……!?」
 唖然としていると、部屋に入らず呆然と立ち尽くしているロムネに気づいたのか、母ララムが2階へ上がってくる。
「ロムネ? どうかしたの?」
 その声を聞いてロムネは隣で母親が心配そうな様子でこちらを見ていることに気づいた。部屋の中にいる“それ”と母親を交互に見て、ロムネは軽く期待しながら返事をする。
「あ、お母さん! ここにお昼ご飯の時言った子がここにいるの!」
 そう言われ、ララムは娘が指差す方向を見た―――が、存在を確認できないとでも言いたげな風に首をかしげた。
「……誰もいないじゃないの。おかしなロムネ」
「えっ……?!」
 そう言うと、ララムは階段を下りていった。
「どうしてお母さんには見えないのかしら……?」
 自分には見えていて母親には見えない。それが不思議で仕方がなかった―――すると“それ”が、すました顔でロムネに話しかけてくる。
「君は、僕たちのような存在を全て否定していないからだよ」
「えっ……?」
 端的に言われたからか、言っていることの意味が理解できない――ロムネが首をかしげていると、“それ”はまた少し説明をしてくれた。
「君には少し難しい話かもしれない。けどね、ここの人間は皆目の前の常識の範囲内でしか物事を判別することができない。それが真実であるはずのことも、全て摩訶不思議なこと、ミステリー、おとぎ話として全て丸く収めてしまい、目の前の現実を否定してしまう」
「……うん?」
「君は亜人種の存在を否定したことはあるかい?」
 今の彼女には難しい話の後に、ロムネは“それ”から質問された。その問いには答えることができた。
「そ、それはないわ」
「うん、だろうね。その心のどこかに僕たちのような存在がいるんじゃないかと思う気持ちが、僕たち亜人種を見ることができる結果につながった」
 ロムネはその言葉に何も言えなかった。彼女を取り巻く人間は皆、亜人種の存在を否定する―――だがロムネ自身は否定することはしなかった。それが今目の前にいる存在しえないと思っていた“それ”に出会うことができたカギになった―――言葉は分かるが、理解し受け止めるには少し時間がかかった。
 少しして落ち着くと、彼女は少し深呼吸してから、気になることを1つ聞いた。
「そうなのね……ところであなたは……誰?」
 そう聞かれ、「あ、それもそうだよね」と、当然とでもいうように“それ”は苦笑した。
「ごめん、言い忘れてたね。僕の名前は……」



第2然へつづく。

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