自然保護隊スターフィル

□第3然
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第3然 理由と葛藤

 自然を守るために結成された組織『自然保護隊』の一員であるスターフィルと出会ったロムネは、彼から「家にしばらくいさせてほしい」と頼まれ、ロムネはそれを受け入れた。
「それで、いろいろ話したいって言ってたけど……」
 家に歩いて戻る途中、ロムネは小さなヒトデのような“それ”に話しかける。
「うん。これから話すよ」
 そう言い、家に戻るとロムネの部屋へ移動した。そこでやっと落ち着いたところで、スターフィルが話し出す。
「えっとね、まず、どうしてこういうことになったのかを、説明しないとね」
 スターフィルは少し考え込むような仕草をし、どう話したものかと悩みながら口を開けた。
「僕はね、こことは違う『自然界』という場所で、そこで暮らしてるんだ。だけど、とあることがあって自然界から脱出しなければならなくなって……」
「えっ! マアスン以外にも村があったの!?」
 ロムネは驚いた。彼女が住む街はマアスンと呼ばれる街で、一軒家やマンション、学校や公共施設なども建つごく普通の街だ。だが、それ以外のおとぎ話に出てくるような世界のことは、ロムネは知るはずもない。
「うん。マアスンの人々は、実際には孤立しているんだ。世界は広く、この場所はほんの世界の一部分でしかないことを、マン人は知らない――いや、正確には孤立してしまったのか、孤立させてしまったのか――」
「?」
「あ、いや、なんでもないよ!」
 ところどころ、スターフィルは何か意味合いのありそうなことを話すが、ロムネには理解ができない。再びスターフィルが説明を続ける。
「それで、うーんそうだなぁ……乗り物? を使って自然界から脱出しようとしたんだけど、マアスンに不時着しちゃって」
「うん」
「戻ろうにも修理をしないといけないから、それまで帰れないんだ。そこで君が僕を見つけた。本来なら見えないから逃げなくてもよかったんだけど、まさかマン人のはずの君が僕を探し当ててしまうから、びっくりしちゃって」
「マン人?」
 ロムネは先ほどから繰り返される1つの単語が気になっていた。
 マン人――魔法やおとぎ話に出てくるような出来事を一切信じない、端的に言えば現実主義な人々。もちろん、当然のごとく魔法も扱うことはできない。スターフィルは軽く説明をしてから、話を続けた。
「マン人は―――そういうことだよ。で、その乗り物が直るまでは君の家にお邪魔させてもらおうかなって思ってるんだ」
「そっかー」
 ロムネは分かってるのか分かってないのか、若干気の抜けた声で返事をする。しかし彼女は目の前のことを理解しようと必死なのか、少し表情は硬い。そんな彼女へ、スターフィルは再び聞いた。
「………いいんだよね? ここにいて」
「ん……? んーと―――うん! ちょっと難しい話もあったけど大丈夫だと思う!」
 スターフィルが話すことを彼女がすぐに理解するのは難しかった。だが、スターフィルは困っていて、自分を頼ろうとしている―――それだけは今すぐに理解できたことだった。彼女の小さな頭で考えた結果、困ってる人を放っておけない性格もあり、ロムネは笑顔で頷いた。
「ありがとう! じゃあ、これからお世話になるよ」
 受け止めてもらえた、と思ったスターフィルは彼女の返事にほっと安心し、表情が綻んだ。そしてロムネから視線をそらすと、そのまま部屋の周りを見渡し始める。その様子はどこか子供のようにも見えて、それがロムネにはそれもかわいらしく見えた。ついつい彼女の口元にも笑顔がこぼれる。
「………」
 しかし、すぐにその笑みは消えてしまう。ロムネには1つ不安があったのだ。出会いは同時に別れも生む。彼が帰るべき場所へと帰るなら、自分はもうスターフィルとは会えなくなる―――いつか来るその未来が頭から離れず、ロムネは俯いてしまった。
「……? どうしたのロムネ?」
 そんな彼女に気づいたのか、スターフィルはロムネのそばに来ていた。俯く彼女の視線にスターフィルがうつり、ロムネは驚いて目を見開いた。
「あっえっと……その……」
 だが考えていたことをロムネは素直に言うことができなかった。それを言ったところで、彼を困らせる気がしていたからだ。言葉を濁らせるロムネにスターフィルは優しく声をかけた。
「何か分からないこととか、不安なことがあったら僕に言ってね? ここにいれるうちはいろいろと相談にのってあげられると思うし。お母さんに言えないことだっていいんだから。だって僕は他の人には見えないんだから、ね?」
「う、うん……じゃあ……」
 そう言われたことで、ロムネは素直に思っていたことを聞いた。もしスターフィルの帰るべき場所に帰る日が来たら、その時自分とスターフィルはもう二度とと会えなくなるのかと。スターフィルは聞かれて少し考え込み、それまで明るかった表情に暗さが浮かび上がる。
「……ごめん。まだ今の君には言うべき時じゃないことかもしれない。でも、いつかきっとその質問には答えるよ」
「そうなのね……」
「ごめん……」
 スターフィルは小さな体をしゅんとさせて謝った。やっぱり困らせてしまったな、とロムネもまた少し落ち込んでしまう――しかし、いつか答えてくれるというその返事を信じ、すぐに笑顔をにじませた。
「いいのよ。いつか教えてくれるんだったら、私待つよ!」
 少し無理矢理笑顔を作ったように見えたかもしれない。でも、今のロムネはそれで彼を安心させたかった。スターフィルは気づいたのか気づいてないのか、彼女の笑顔で暗かった表情にまた笑顔が戻る。
「ありがとう……君って本当に優しいんだね。……母上みたい」
「えっ?」
「あ、今の取り消し取り消し!」
 ぼそっと呟いた言葉―――スターフィルは再び手であろう部分を必死に左右にふった。その仕草がなぜかおかしくて、ロムネはふふっと笑ってしまい、スターフィルもそれにつられてくすっと照れ笑いが出てしまうのだった。
「ロムネ〜、ご飯できたわよ〜」
 その時、ロムネの名前を呼ぶ女性の声が聞こえた。その言葉でロムネはハッとして我に返る。
「あ、じゃあちょっとご飯食べてくるね。あとお風呂も」
「お風呂?」
 スターフィルは聞き慣れないのか、お風呂という単語を復唱する。階段を下りてリビングに向かおうとしたロムネの足が止まり、スターフィルのほうを向く。
「え、スターフィルったらお風呂入らないの?」
「え? いや、その……」
 困惑した様子になるスターフィルを少し見る―――が、まぁいっかとロムネは余計な詮索をしないことにした。
「とりあえず、お風呂は絶対覗かないこと! 分かった?」
「え? う、うん」
 スターフィルは本当にその意味を理解したのかしてないのか、言われるままに頷いた。それを確認して満足したのか、ロムネは止めていた足をまた動かし、階段を下りていくのだった。




第4然へつづく。

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