610短編

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「ゼロス!誕生日おめでとう!」
ロイドがそう言って俺の部屋の扉を叩く。
もう昼だ。
流石の俺も、起きている。
けど俺は答えず、布団から出ようともしなかった。
ロイドは続ける。
「全くゼロスはいつもそうだなあ。バレンタインとか、誕生日とか。…冬の、とある一日とか。都合の悪い日はいつもそうやって夜まで部屋に籠もる。駄目だぞおそんなんじゃ!」
余計なお世話だ。
そう、言ってやりたかったがそれでも黙る。
浅い微睡みの中、今日という日をやり過ごす為。

俺の誕生の何を祝えっていうんだ?
望まれて生まれた命じゃない。
誰も、望まなかった命。
クルシスでさえも、ただより濃い血筋を受け継ぐだけの道具としてしか見なしていなかった。
仮にロイドが俺を愛してくれたって。
俺が生まれた日に俺を愛してくれていた人はいなかったのだ。
ならば今日という日を祝う必要は無いじゃないか。
もう自分を蔑ろにはしない。
けれど今日は。
誰にも祝われたくないのだ。
「…なあ、ゼロス」
ロイドがまた声をかけてくる。
「なんでそんなに頑ななんだよ。どうして誕生日を疎む必要がある?望まれて生まれた命じゃないから?でも――…」
俺は。
扉を開けていた。
「!ゼロs……」
「帰れ。そこまでわかってるならどうして来たんだ?何?嫌がらせ?」
「…あ、あの」
「セバスチャン!なんで追い返さないんだよ!」
俺が怒鳴ると、セバスチャンが歩いてくる。
「お呼びでしょうか?」
「…今日の来客は全員追い返せって言ったよな……?」
そう睨みつけてもこの使用人はしれっとして言った。
「ゼロス様、寝起きで機嫌が悪いのはわかりますが人に当たるのは良くないですよ」
「寝起きじゃねえよ!とっくに起きてたっての!!」
どんなに俺が怒鳴ってもこの使用人はどこ吹く風。
「すみませんハニー様。ここは一旦引いて、ゼロス様に頭を冷やしてもらいましょう」
「……でも、…いや。セバスチャンが言うならそうする」
ロイドも俺の指示よりセバスチャンの指示に従う。
なんだよ。なんなんだよお前ら。
俺の気持ちとかは一切無視なのかよ。
てめえらの都合だけで動くんじゃねえよ。
「じゃあ、ゼロス。俺は一旦帰る。また来るからよく考えてくれ」
「何をだよ!!」



「誕生日は、何を祝う日だ?」
 


…は?
その名の通り、誕生を祝う日だろ…。
「ゼロス様もお部屋にお戻り下さいませ。起き上がってすぐ怒鳴っては、ただでさえ低血圧なのに頭に血が上ってお身体に障りますよ」
「……ん」
それは言えている。
純粋に身体を心配されているのに、それを邪険に扱う必要も無い。
埒があかない…というのもあるのだろうが、一旦帰ろうが俺の態度が変わらないことは目に見えているのだ。
頭を冷やして…というのは、文字通りの意味だったのか。
俺は大人しく頷くと、部屋に戻った。
横になると意味が無いので、ベッドに座り込む。
「…誕生日……か」
 
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