桜色小町
□桜の焦がれ
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一方、弘之介はというと。
(本当に…良かったのだろうか…)
役所の自室にて、自問自答ばかりしていた。
恵に幸せを取り戻したいと思っていたが、これでは逆に恵を悲しませるのではないのだろうか。
「…あの人の元に行こう」
弘之介は立ち上がり、ある人間の部屋へ向かった。
「…で、何があったんだ?」
弘之介は、お馴染みの相談相手の齋藤の元へやってきたのだ。
齋藤は机に向かって、珍しく真面目に仕事をしていた。
「齋藤様…手間取らせて申し訳ありません」
「いや、別に構わないよ?私は君のことが好きだからね」
齋藤の変な告白に多少引きつつも、弘之介は今の悩みを話した。
「…つまり、逆にその恋人を悲しませてしまうんじゃないか、と」
「その通りでございます…」
「ま、結論から言ったらそれで良いんじゃない?」
「え…」
弘之介は動揺を隠せなかった。
同時に、今日初めて齋藤は弘之介と顔を合わせた。
その顔は、ひどく冷静な面持ちをしている。
「確かに、今まで君は恋人と結ばれるためにここまでやってきたのだろう。だが、こうやって君が結婚して、恋人は自由の身になる。それだけで充分な気もするが?」
弘之介は、自身の手を強く握った。
ただただ、悔しくてしょうがない。
齋藤は続ける。
「本来、違う身分同士は結婚できないからな…。君は、それでも結婚したいか?」
「はい」
弘之介は、間髪入れずに答える。
その意志の強さに、齋藤は僅かながら頭痛を覚えた。
これは、自分が何を言っても変わらないと齋藤は感じた。
齋藤は暫く考えた後、至って真面目な顔で弘之介に問いた。
「弘之介…」