桜色小町
□桜の焦がれ
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齋藤の今まで以上に真剣な表情に、弘之介は緊張を感じた。
「なんでしょう…」
「…耳を貸しなさい」
「はい…」
齋藤は弘之介が近づいてくると、その耳にそっと囁いた。
あまりにも唐突な内容だったのか、弘之介の顔から血の気が引いていく。
「さささ齋藤様!そそそんな!!」
「弘之介、少しは落ち着けっ」
「落ち着けるような内容だったら、こんなに動揺しませんて!」
「君は恋人と居たいのだろう?」
言葉が、出なかった。
時が一瞬止まったかのようだった。
はやる鼓動を抑えて、弘之介は応える。
「確かに、私はお恵とずっと一緒に居たいとは…思います」
「だが、お咎めをくろうてまで居たいとは思わぬのか」
「それはそうですけど!!」
齋藤のあまりにも残酷な手段に、弘之介は困惑しか覚えなかった。
齋藤は先ほどより幾分か柔らかな表情になり、弘之介をなだめるかのように話し出した。
「…弘之介、私は弘之介のやったことは間違ってないと思う。だから、弘之介自身が信じた道を行けば良い」
「齋藤様…」
齋藤は弘之介の両肩をしっかりと掴む。
「ただ、このような方法もあるということを知っておいてほしいと思ったまでだ」
「……っ」
「だから、本当に弘之介の自由にすれば良い。何かあったら私に言いなさい」
「齋藤様…っ…」
(この方は、どこまで私を助けてくれるのだろうか。
どこまで寛容なのだろうか。
自分がとても小さな人間に見えてしまう)
弘之介の瞳からは、知らず知らずの内に涙が零れていた。