桜色小町
□桜の簪
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(最初から見れる様にしよかな…。それとも、見せ場から見よかな…)
恵は母に叱られたことをすっかり忘れ、足取り軽く歩いていた。
しかし、どこか雰囲気がおかしい。
原因は、頭にあった。
「ああ、欲張りすぎたわぁ。簪とかこないに着けなかったらよかったぁ」
頭に、溢れんばかりの桜の簪があった。
恵は桜が好きであった。
それ故に、いつもおめかしする様な場面では、桜の簪は外せないのだ。
例えその時の季節が、春でなくても。
「祇園まで歩かんかったら良かった…。暑いわ…」
この時、見事に梅雨明けして本格的に夏に入ろうとしていた。
また、京の夏は地獄だ。
江戸より遥かに蒸し暑い。
「どっかでお冷や飲まな、この暑さやと死んでまうわ」
恵は目と鼻の先に見付けた茶屋に向かって小走りし始めた。
「冷たい抹茶ください!」あと、葛切りもっ」
「へえ、少しお待ち下さいな」
恵は注文を終えると、扇子で扇ぎ始めた。
…ふと、何か頭の重みが足りないと悟った。
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