桜色小町
□桜の簪
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「すんまへん、鏡貸してもらえますやろか?」
「どうぞ」
店の者から鏡を借りると、恵は頭の簪を確認した。
「あぁ〜っ、桜の簪が足りひん!!」
その恵の大声に、店に居る一同が振り返る。
「すんまへん…。あ、鏡おおきに」
恵はしょんぼりした顔で店の者に顔を渡した。
(一等お気に入りの簪落としてしもた…)
恵が落とした桜の簪は、恵が寺子屋で一番の成績を取ったご褒美に母に買ってもらった、高い簪だった。
(さっき走ったんがあかんかったんやろか…)
抹茶と葛切りが出されても、中々手につかなかった。
「あの、桜色の着物着た貴方」
上の方から、声が聞こえた。
「へぇ…」
顔をあげると、自らよりも年上と思われる少年がいた。
まだ、元服を済ましたばかりと見える、初々しい少年だった。
「これ、貴方の簪ですか?」
「…あっ」
少年の手には、自らのお気に入りの桜の簪が握られていた。
「すんまへん!お武家様に拾わせるなんて…」
「いえ、でも貴方で良かった」
「へ?」
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