桜色小町
□桜の記憶
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「弘之介はん、堪忍え。恵はそこ寝かしといたらええし!今冷たいお茶出しますしね〜」
「いえ、お気遣いなく…」
弘之介は言われた通りに恵を床に寝かすと、ふぅと溜め息を吐いた。
辺りを見渡すと、本当に町民の家に来たのかと実感する。
普段屋敷で見る光景とは全く違っていた。
「あ…」
ふと恵の頭を見ると、昨日自らが拾った桜の簪があった。
「桜、ね…」
――桜には、間接的にだが嫌な記憶しかなかった。
途端に、自らの頭を記憶が走馬灯のように駆け巡った。
「きゃあああっ!」
――廊下に響き渡る侍女の悲鳴。
「誰か!誰か医者を呼んで参れ!!」
――家老の焦りを感じる命令。
幼き頃の僕の目の前には、母親が血塗れになって倒れていた。
その頃にはもう自我があったものだから、母親が死んだなんて事は容易に解った。
「弘之介様、此処から離れましょうぞ。あまりにも残酷な…」
「……」
侍女は僕の手を引き、別の部屋に移された。
「……」
何も考えられず、僕は放心していた。
何が起こったかさえ、今よく考えれば分からなくなっていた。