桜色小町

□桜の涙
1ページ/13ページ










――なんだか、弘之介はんの表情がおかしい。

恵は弘之介のえらく焦る顔を見ていると、真逆弘之介の家の者ではないのかと思い付いた。


「お恵さん…」
「えっ…!」


弘之介は恵の手首を強く掴むと、全力疾走をしだした。
男はそれに気付くと、大声で彼の名前を呼んだ。


「弘之介様!早う屋敷の方にお戻りください!」


その男は恵達の後を追うように走り出した。
やはり見つかってしまったかと、弘之介は走りながら舌打ちをする。
恵はよく舌を噛まないなとばかり考えていた。


「きゃっ」
「お恵さん!」


突然の恵の甲高い声に、弘之介は何事かと振り返る。
恵は足をくじいてしまい、走れなくなっていた。
弘之介は一瞬躊躇いながらも、恵をおんぶした。


「ひ、弘之介はん!うちほんま重いし置いて行ってくれて構しまへん!」
「重いなど今は関係ない!」
「…堪忍え」


弘之介は恵をおんぶしながらある程度走ると、別の路地に入った。
其処で恵をおろすと、優しく恵を抱き締めた。


「ッッ!?」
「ごめん…」


弘之介は抱き締める力を少し強めると、恵にそっと話し掛ける。





























次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ