桜色小町
□桜の涙
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「こんな何処の馬の骨とも解らぬ私を匿ってくれて、ありがとう。また京の何処かで会おう」
弘之介は恵を解放すると、哀しく微笑った。
恵には未だ何がどうなっているのかが判らなかった。
弘之介は立ち上がると着物の土埃を払い、さよならと告げて路地を出ていった。
「…え。今のって…なに?」
別れだったのか。
何故だろう、不意に涙がこぼれていく。
余りにも突然の出来事に、恵は声を上げて泣くことすら出来なかった。
「なんやろ…こんな別れ方ってありなん?嘘やろ…?なぁ…」
こんなに愛しい。
去っていく弘之介の表情が、脳裏に刻まれている。
「阿呆や…あん人」
恵はそっと立ち上がると、涙を袖で拭う。
そして、我が家へと戻ることにした。
「なんや恵、弘之介はんは?」
「…さよならや」
「えっ…」
恵は驚く母を余所に、自室へと向かう。
部屋に着くと、腰が抜けてしまった。
部屋には弘之介の薫りが微かに匂っている気がした。
すると、恵はキラリと光る物を見つけた。
気になって近付いてみると、それは懐剣であった。
勿論恵は持っておらず、弘之介の物と見えた。
「あわてんぼやな…」