桜色小町
□桜の涙
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恵はそっと刀を鞘から抜いた。
障子から入る日の光が、刃に反射した。
「恐ろしいわぁ…」
包丁以外に生まれて初めて見た刃物は、弘之介そのものを表してあるように見えた。
鋭く、しかし儚いような。
「あん人は…どんな過去があったのやろ…」
桜が嫌いだと言った、その理由を恵は未だ知らない。
恵は刀を鞘に収めると、箪笥の上にそっと置いた。
「刀、渡さんとあかんよね。江戸に帰らはる時までには…」
恵は小さな溜め息を吐く。
前は運良く祇園で出会えたが、今度はもう会えないかもしれないのだ。
それに、弘之介が邸から出ないように言われているとも推測できる。
恵も暫くは家から出ないようにすることにした。
「あんなに叱らなくても…」
そう呟きながら邸内の廊下を歩き回るのは、家出をした弘之介であった。
弘之介は邸に帰ってきた途端、父親から説教をくらってしまったのだ。
「あー邸はかったるいな…」
弘之介は自室につくと、ドカっと座った。
そして、思いきり仰向けに寝転んだ。
「お恵さん…」
なんだか、あの家にいたことが幻のように思えてきた。