桜色小町

□桜の乱舞
2ページ/13ページ


















突然の出来事に、弘之介は対応出来ずにいる。


「母上殿、面を上げて下さい。一体何があったのですか?」


弘之介が優しい声で母に尋ねても、母は只嗚咽をあげるばかりである。


「いなくなってしもてん、恵姉ちゃん」


ふと、母の後ろから愛らしい少女が現れた。
その少女は、恵の妹の咲であった。
咲の言葉に、弘之介の表情が変わる。


「お恵さんが…いなくなった?」
「正確に言えば、連れ去られてしもた」
「連れ去られた…?」
「うん」


弘之介は我を忘れて、咲の両肩を掴んで揺する。


「何処へ連れ去られたのですか!?」


咲は重苦しい顔で、小さな声で呟いた。



「島原や…」


「…なんだって?」



ー…島原というのは、遊郭などが揃う色街である。
そこに連れ去られたとなれば、遊女にされてしまう。


弘之介の顔から、サァッと血の気が引けるのが判った。
まさか、遊女にされているとは。
思考がついていかない弘之介の前に、咲は頭を下げる。


「お願いします。どうか、姉上を助けて下さい」
「…しかし、何処に居るのかすら解りませんよ?」
「ウチも知らへん」
「香屋(コウヤ)や」


間髪入れずに、母が呟いた。


「香屋…ですか」
「隣の吉兵衛はんが調べてくれてん。島原の門潜って少し歩いたところらしいわ」
「…判りました」


弘之介は立ち上がると、咲と母に告げた。


「私が必ず助けます」



(お恵さん…)


(必ず、必ず私が)


(助けに行きますから…)


遊郭には、今夜行くこととなった。
























次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ