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□ネタ
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【我が心のIndia】(仮題)
 
 
 
 
意外な場所で意外な人物を見かけた。
 
 
 
  
「星矢?」

リキシャが行き交い砂塵舞う街中、アイオリアの視線は一点に釘付けになった。

インドは首都、ニューデリー。 
任務中の同僚の頼み(というほど殊勝な頼まれ方ではなかったが)で、アイオリアは休暇を利用して、その同僚の故郷であるこの国を訪れていた。

モンスーンの時期は遥か遠く、乾季の只中にある街はとにかく埃っぽい。
風も吹いていないのに、常に大気に黄色い霞がかかっている。

その濁った空気の向こう、けして近くはない距離の先、雑多な景色に捕らわれることもなく、アイオリアの目は彼を捕らえたのだ。

はじめは見間違いかと思った。
だが自分が彼を見間違える筈がない。
相変わらず、出会い頭に押し倒したくなるくらいに可愛い。
(いや、今それは置いといて)
 
星矢は自分の見知らぬ男と談笑していた。
正直面白くないが、いま自分の心を占めるのは不満よりも戸惑いだった。
 
一瞬見間違いと思ってしまったのは、意外な場所だからという理由だけではない。
最愛の天馬座の聖闘士。
彼は、一般社会においても覇権を握る財団の総帥である女神の側近くにある。
執着にも近い女神の寵愛を受ける彼を、世界のどこで見掛けても不思議はない。

だが今の星矢は……

エクステンションだろうか? 襟足の髪は、腰に届くほど長い。
二週間ほど前に会った時にはいつもの短髪だったから、地毛ということはないだろう。
星矢が身に付ける衣服は、この国の民族衣装。
それだけなら不思議はない。
アイオリアが最も迷いを感じたのは―――

この国の女性が身に纏うサリーと呼ばれる衣服。
彼が身に付ける衣装が、そのサリーだったからだ。

怖いくらいに似合った出で立ちの星矢は、明らかに富裕層である傍らの男と共に、歩道に横付けにされたロールスロイスに乗り込んだ。

砂煙をあげ去っていく高級車。
想い人である少年の意外な様相に、咄嗟に声を掛けることもできず。

アイオリアは、ただ呆然と、車の去った方向を見詰め続けていた。
 
 
 
 
 
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