南風〜ぱいぬかじ〜

□2.わらびがみ
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「ふわあぁぁ」

一日遅れての沖縄本島観光の皮切りは、星矢が思わず漏らした感嘆の声だった。

場所は美ら海水族館。
水族館など勿論行ったことのない聖闘士達は、星矢ならずとも、海の神秘に心を奪われている。

「あ、ポセイドン神殿に行く時、あんなのいた!!」
「なるほど。あそこは天然の水族館だな。今度カノンに海洋生物観察ツアーを企画させよう」

などと本人が絶対拒否しそうな目論見を立てる一行。

「おい星矢、走るな」

興味深い海の生物に、興奮気味で次へ次へと進んでいく星矢。

「リア、あの海老美味しそう」
「星矢、多分それは見方が間違っている・・・・・・」

見事な五色海老の水槽にへばりつく星矢を、アイオリアは苦笑しながら引き剥がす。

「リア! あのにょろにょろなに!?」

「すごいリア。あの魚蛍光ピンクだ」

「あ、産まれた・・・リアぁ、見た?」

「リア〜〜〜〜〜」


他の面々はすっかり不機嫌である。

「おいアイオリア!」

ちょっとトイレと言って星矢が不在の間に、黄金達がアイオリアに詰め寄る。

「お前、いくら星矢が懐いてくるからといって、独り占めにも程があるぞ!?」
「星矢はみんなの星矢だ!」

ひがみ以外の何ものでもない非難に、アイオリアは余裕の笑みを浮かべる。

「そうは言っても、俺は星矢の好きにさせているだけだからな」
「!!!!!」

星矢の傍らを、彼が甘えるのが分かってて独占しているくせに!!

素面でも小宇宙を燃え上がらせる黄金達。
その気配に、星矢が慌てて戻ってくる。

「ちょっと! こんな所で殺気立てるなよ!」

誰が原因だと思いながら、何も言えない黄金達。

「星矢。ここ、場所開いたぞ」

館内は混雑している。
水槽の前には階段状の段差が設けられており、幼い子供はなかなか水槽から離れない。
ようやっと子供が退いた水槽の前を、兄弟達が確保していた。
星矢が飛んでいく。

「かわいいねぇ・・・・」
「ほんとかわいいな。」

星矢は水槽を、兄弟達は星矢を見詰めていたが、一応同調しているようだ。

「あ・・・いま何時?」

暫く水槽に見とれていた星矢が、突然時間を気にしだした。

「一時五十分だが・・・どうかしたか?」
「・・・ガイドブックにね」

星矢は、小さな男の子が順番待ちしているのに気付き、水槽の前から離れながら言った。

「二時から、シアタールームで放映が始まるって書いてあったんだ。サプライズが用意されてるって」

シアタールームは目の前だった。
星矢が行きたがっているのなら、行くしかないだろう。
一行は既に開場が始まっているその小部屋の客席に鎮座した。

程なくして放映が始まる。
内容は、この水族館のメインでもあるジンベイザメの生態についてだった。
短い内容ではあるが、正直誰もが眠気を抑えられなかった。
動物好きの星矢が、食い入るように見入っているのを可愛いくて、皆辛うじて意識を繋ぎ止めていた。

やがて、暗い背景にジンベイザメが去っていく映像を最後に、短いショーが終わる。
やっと終わったと席を立とうとした時、モニターが割れて光が溢れた。

「わぁぁぁぁ!」

星矢が歓声をあげる。
モニターの向こうに現れたのは、「黒潮の海」。
この美ら海水族館のメイン水槽であった。

「なるほど・・・こういう演出か」

目の前を、巨大なジンベイザメが悠然と通り過ぎて行く。
畳何畳分ものマンタも。
温暖な気候は、巨大生物を育むのだろう。

丁度、餌付けの時間となった。
ジンベイザメもマンタも、その大人しい気性からは考えられないような大口をあけて、捕食する。
星矢がブルっと肩を震わせたの気付き、アイオリアがその肩を抱いた。

「星矢、次行くか」

こういう時、アイオリアは絶対に「大丈夫か」とは言わない。
それは自分の恐れを感じ取ったということに他ならないから。
星矢は、そんなアイオリアの気遣いに敢えて気付かない振りをして、その腕にしがみついた。

「リアは優しいね・・・」
「? 何か言ったか? 星矢」
「なんも言ってないよ!」

悪戯っ子のような笑みを浮かべると、星矢はアイオリアが静止するのも聞かずに、お行基悪く館内を駆け出した。
 
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