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□ネタ
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【過去拍手話2(ハデ星)】
「目が覚めたか」
目の前に、男の顔があった。
素晴らしい美貌。けれど知らない顔。
「…………誰?」
率直なその質問に、男は悲しそうに表情を歪めた。
「余を忘れてしまったのか」
男の口振りからすると、自分達は知り合いのようだが、記憶に引っ掛かるものがない。
――いや、この男のことだけではない。何もかもが思い出せなかった。
自分が、誰なのかさえ。
「俺……誰?」
どこか目が醒めきらない。その問いは呟きとなる。
体の下に男の腕が差し込まれ、抱えられるようにして助け起こされた。
「何も憶えてないのだな。大丈夫だ、お前が憶えていなくとも、余がお前の全てを知っている」
「すべ…て…?」
長い長い夢を見ていたような気がする。そしてまだその夢は続いているのではないかと思うほど、現実味に欠けた世界だった。
「綺麗な場所…」
「エリシオンだ……余の名はハーデス。お前の名は星矢」
「星矢…俺の名前……」
「そうだ。余とお前は、この地でずっと暮らしてきたのだ。二人きりでな」
ハーデスと名乗る男のもう片方の手が星矢の帯にかかり、しゅるりと引き抜いた。一枚布の衣は、それだけで星矢の体から滑り落ちる。
「あ……」
「我らは愛し合ってきたのだ。このようにして」
露になった星矢の肌を、ハーデスの唇が這う。
「お前はその愛らしい唇で余を愛していると言い、悩ましい喘ぎで余を魅惑した」
頭はまだぼんやりとしているのに、体がどうしようもなく反応する。この行為の意味を、快楽を、自分は知っている。
手で、唇で、舌で愛され、抑えきれない声が頻りなく口を衝いて出た。
「これからも、何も変わることはない。余とお前は、此処で永遠に愛し合うのだ……」
体の中の脈打つもの。
その欲望の開放が、信じられない程の快感を脳に伝えたところで、覚醒したばかりの星矢の意識は再び闇へ引き戻された。
* * *
腕の中で眠り続ける星矢の髪を愛しげに弄んでいるところに、双子神が現れた。
ハーデスはそのままの体勢で、双子神を睥睨する。
「お休みのところ申し訳ありません。いかがでございますか?」
ハーデスが星矢を深く抱き寄せたが、目を覚ます気配はなかった。
「手筈通りだ。ペガサスは全ての記憶を失っている。可愛いものだ、余の言葉を全て信じ、大人しく抱かれた。愛しい男に散々慣らされた体であることも忘れて…」
双子神は深々と頭を垂れた。
「地上と冥界の境に警備の者を増やしました。黄金聖闘士が強硬手段に出た場合、突破される可能性はありますが、不意打ちはあり得ません」
「ペガサスの小宇宙は余が封じた。万が一聖闘士がこのエリシオンに辿り着いたとしても、奴等に星矢を探し出すことはできない」
不敵な笑みを浮かべるハーデスに再度頭を下げると、双子神は消えるようにその場を辞した。
「やっと手に入れたのだ。何があっても手放しはしない……星矢」
何の夢を見ているのだろう。
夢の中では記憶が戻るのかもしれない。
眠る星矢が、小さく笑い声をあげた。