読み切り

□Adult Children
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黄金聖闘士達が来日した。
黄金ともなれば団体で動くことは稀で、通常任務も単独でこなすが、今回は女神からの慰労ということで召集され、別途機会を設けたシオンと童虎を除く黄金が全てこの城戸邸に集結していた。

夜ともなれば、ふんだんに用意された各国の酒を前に、ちょっとした宴会が始まる。
接待を仰せつかった青銅の少年達は、序盤は肴の準備に右往左往していたが、大人達のお腹が満たされてくると、今度は酌の相手をさせられる。

だが当然酌だけで済まされる筈もない。酒豪の黄金達が空き瓶を増やしてゆくペースにつられるように、相手をする未成年の青銅達もまた、杯を重ねてゆく。

夜が更けるにつれ、部屋全体がまったりとした空気に包まれた。中にはソファや床に寝そべって寝息を立てている者もいる。また幾人かは姿を消しているところをみると、あてがわれた客室に戻ったのか。

氷河は修行時代、極寒の地でウォトカのようなスピリッツを常飲していた為、他の青銅達に比べれば酒に強い。
だが長時間に及ぶこの酒盛りで、流石に視界は揺れ始め、若干眠気にも襲われていた。


「氷河、星矢の姿が見えないんだが…」

そんな折、うつらうつらし始めていた氷河にアイオリアが尋ねた。氷河は何故自分に?と思いながら周囲を見回すと、見事なまでに兄弟達は撃沈していた。

「自分の部屋に戻ったんじゃないですか? あいつ、毎日寝るの早いから」

酒が入ってなくとも、星矢の就寝時間は早い。

「いや、部屋には居なかった」

おや? と氷河は思った。
毎晩星矢は10時か11時には寝てしまう。日付変更線も越えたこの時間に起きているとは考えられないが。

部屋にいないとなると、どうせ酔っ払ってどうせ何処かで寝入ってしまっているというオチだろう。
困ったことに星矢には、所構わず寝入ってしまうという癖がある。
家の中だろうが外だろうが関係なく。

だが人間自覚の無い行動パターンというのは限られてくるものだ。またどうせ温室あたりで眠りこけているじゃないだろうか。

やれやれ、と内心思いながら氷河は腰を上げた。

「心当たりあるんで、ちょっと捜してきます」

外で沈没してしまっているなら、放っておく訳にはいかない。まだ外で寝て支障ないほど気温は高くないし、このままでは瞬や一輝にどやされる。
子供扱いされるのをとことん嫌うくせに、どれだけ世話を焼かせるのか。
こうなったら後で思い切り恩に着せてやる。

ぶつぶつと零しているうちに、目的の温室に辿り着いた。

屋敷から歩いて五分ほど離れた木立の中にあるこの温室は、あまり人が寄り付かないこともあり、星矢のお気に入りの場所らしい。
そのことを知っているのは、以前偶然此処で星矢を拾ったことがある自分だけではないかと思う。

腕利きの庭師によりぬかりなく手入れされた温室内に入ると、四季折々の花のかぐわしい香が鼻腔をくすぐった。
カラス張りのドーム状の温室内には淡い常夜灯が点され、ところどころ草花がぼんやりと浮かび上がっていた。
些か現実味を欠く光景である。

だからだろうか。
そこで見たものを、夢かと思ってしまったのは。


温室の一角に設えられた東屋に近付いた時、微かな声が聞こえ、茂みを掻き分けかけた手が止まった。
声というよりは荒い息遣いといった方が正しい。

それは一人だけのものではなかった。

――…ぅ……ぁ………

初めは呻き声のようにも聞こえた。
だがすぐにそれは、別の色を持つ声だと気付かされた。

「ほら…もっと動いてごらん」
「あっ、待…って……俺、もう…も…ぅ………!」

どちらも聞き覚えのある声だった。
片方は、紛れもなく自分が此処に来た理由である人物のもの。
もうひとつの声は、居間にいなかった内の一人――双子座の黄金聖闘士・サガ。

この時点で引き返すべきだったのかもしれない。
だがそれでも、言い知れぬ力に抗うことはできなかった。

いつしか止まっていた手は音を立てぬよう茂みを掻き分け、氷河の目ははっきりと声の主達を捕らえていた。



月と常夜灯の明かりに浮かび上がる二つの裸体。
一糸纏わぬ少年の肢体は、思っていたよりもずっと線が細く、大人の男の腕の中で律動する。

その声。その表情。その所作。
これまで見たこともないような少年の媚態。



艶かしい。

だが、目を離すことができない。

耳が捉えるものは、もはや彼の喘ぎ声のみ。



あれは本当に自分の知っている少年だろうか?



これは果たして、現実だろうか?  
 
 
 
 
 
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